桃源郷
イエチェン(叶城)での休息日、近くに壁画があるというので、希望者で2台のバスに分乗して行って見ることになっ た。チュパニ(棋盆)という所で、近いといってもここから80キロだという。
道らしきものもない砂漠を1時間ほど走る。振動が激しく、床と座席と天井が別々に動いている。バラバラになりそ うである。
ぐるっと見渡す限り地平線の景色はいつまでたっても変わらない。壁画というからには山か崖でもないといけない のだが、と思っていると、ロバを連れた人とすれ違った。
砂漠の真ん中に人が??
周りを見るとやはり360度なにもない。見まちがえたのだろうか。
そのうち、バスが動かなくなってしまった。やはり無理していたのだ。ここで降りろと言われる。
砂漠に降ろされ、どうしたものかと思っていると、ここからは歩いて行けという。見渡す限りなにもないのだか、しか たがないのでとぼとぼと歩いていた。すると、いきなり足もとがぽっかりとなくなって、そこには大きな谷が広がってい たのである。崖の下は緑が一面に広がっている。私たちは崖沿いの道を降りていった。
そこは森があり、川が流れ、桃や水仙や菜の花が咲いている、まるで夢のようなところだった。畑があり、小さな 村がある。ナン焼きかまどでナンを焼いている匂いが漂ってきた。
さっきまで砂漠の真ん中に居たのがウソのようである。誰かが「桃源郷のようだ」と言った。まさにそのとおりだ。
崖の中腹に石窟があり、その中に壁画があるといっていたのだが、残念ながら剥がされたのか、風化したのか、 まったく残っていなかった。
壁画は見られなかったが、こんな美しいところに来れただけでもよかったと思う。
そこで食べたパン型のナンも、とっても美味しかった。
ここはガイドブックにも載ってないようだし、もう二度と来ることはないのだろう。桃源郷なのだから、幻の村なのだ から、もういちど行こうとしても行けないような、そんな気がするのである。
桃源郷