ごちそうさま
料理長のトルソンさんはイスラム教徒なので、豚肉は一切食べない。豚肉に触れた包丁や食器も絶対に使わない 。だから2ヶ月の間、豚肉が食事に出たことはない。羊も美味いのだが、豚肉が好きな私としては食えないとなると 余計に食いたくなるものだ。特に中国隊は豚が好きなので禁断症状が出てきたようだ。
ある日の夜、絶対に料理長に見つからないようにという注意とともに、各テントに豚肉が密かに配られた。中国隊 がどこからか調達してきたらしい。私のテントには耳が配給されたのだが、とても美味くて感動した。隠れて食べるも のほど美味いというのは本当だ。
トルソンさんの華麗な麺さばき
私も挑戦してみたが、やはりうまくいかない
羊の足を切り、そこから息を吹き込む
膨らんだら、腹から割いていく
麺にのせる具を作る。 これならできそう・・・
と、いうわけで料理に使うのはほとんど羊である。 羊は行く先々のオアシスで調達した。肉ではなく生きた羊なの で、それを解体して肉にするところから料理は始まる。
まず、のどを切って血を出した後、足に切込みを入れ、そこから息を吹き込む。そうすると皮と肉の間に空気が入 り、中で剥がれていくのだ。
そのうち、風船のようにぱんぱんに膨れてきたら、腹にナイフを入れて一気に割いていく。皮は加工して利用でき るので、傷つけないよう大事に剥がす。
その後は料理に使えるようにそれぞれの部位に分けていくのだが、実に見事な手際のよさである。
どうやらこのあたりの人は、みんなこれくらいのことは出来るらしい。出来て当然なのだ。
目をそむける隊員もいたが、これを残酷だと思ってはいけない。自分がしなくても誰かが代わってしてくれているこ となのである。それは日本でも一緒だ。
人間は他の生命を奪って生きている。生まれながらに罪深いのだ。
羊の解体はそんなことを私たちに教えてくれた。
ごちそうさま