いただきます
「食事の用意が出来ましたー。取りに来てくださぁーーい。」
食料班の叫ぶ声が聞こえると、周りのテントからシロアリのようにぞろぞろと隊員が出てきて食堂車に集まってくる。
食堂車とは中国隊の持っている厨房車のことである。箱車を改造したもので、中にコンロが付いている。
中国隊とラクダ隊、100名のすべての食事はウイグル人の料理長と数名の調理スタッフで賄われていた。もちろ ん小さな厨房車だけでは間に合わず、外に大きなかまどを作って、そこで煮炊きをしていた。
厨房車。ぶら下がってるのは羊
地面を掘って作ったかまど
小隊ごとに持って帰った料理をテントで、あるいは風のない日は外で食べる。食器はホーローのどう見ても洗面器 のようなものと、やはりホーローの皿に盛られたものを自分のコッヘル(アウトドア用食器)で食べるのである。
料理はウイグル料理と中華の折衷だが、とてもうまい。ビールも1人1本ずつ配給される。みんなあぐらをかいて
山賊の酒盛りのような状態だが、外で食べるときはピクニック気分でとても気持ちいい。
テント内での食事
風の強い日は外での食事は無理である。もちろん、砂が入 ってしまうからだが、実は、既に調理の段階で砂はいっぱい 入っているのだ。
誰でも一度は、アサリの味噌汁を食べていて、砂が入って いたために嫌な思いをしたことがあるだろう。あの砂を噛ん だときのじゃりじゃりとした感触は寒気を覚えるほど嫌なもの である。が、砂漠の料理に砂が入っているといっても、あの ようなじゃりじゃり感はあまりない。砂の粒が非常に細かい からだ。慣れればあまり気にならなくなる。
とはいえ、食事が終わったあとの皿やコップの底にはしっ かりと砂が積もっている。
砂漠に住む人は多分、歯が磨耗するのが早いのではない だろうか。
異境の地に来ているのだから、当然日本では食べたことがないものも出てくる。ギシギシもその一つだ。
これは、春雨か葛きりに似ているが、弾力が非常に強くて、まるで輪ゴムを食べているようだ(食べたことないが)。
歯で噛むとギシギシ音がするので私たちは「ギシギシ」と呼んでいた。オアシスの町では、乾燥したものを藁のよう に束ねて売っているのを見た。
また、日本では高級食材の乾燥ナマコも時々出た。これは乾燥したナマコを戻してスープに入れたものなのだが
洗面器いっぱいにナマコがうようよひしめき合っているのを見ると非常にグロテスクである。
しかし、やはり高級食材だけあって、食べてみると、とってもうまい。が、食えない人は見るのも嫌だろう。
これは好きな人と嫌いな人にはっきりと分かれた料理だった。
私は知らない土地に行ったときは、できるだけそこの食べ物を食べてみたい。もちろん美味くないこともあるのだ が、やはり、そこに住んでいる人の食べているものを食べるのは、そこの文化を理解するのに大切なことだと思うの だ。
いただきます