鈴木重子(すずき しげこ) 日本人ではじめて、「ニューヨーク・ブルーノート」でライヴをおこなったヴォーカリスト。
彼女の歌声は、深い静けさから聞こえてくる。
芭蕉は「静けさや 岩にしみいるセミの声」と、静けさを表現したが、そんな静けさとも違う。
寒月の静けさとも違う。
昔、「水郷めぐり」をしたことがあるが、葦の繁る水郷を、手こぎの小さな舟でゆっくり、ゆったりと進む。時おり、聞こえてくるのは、小魚が飛びはねた ”チャツポ” という音だけ。小舟は、ただ、ゆっくり、ゆったりと・・・・・・・・。
そんな時の流れを忘れてしまう、深い静けさから、 彼女の歌声は聞こえてくる。
「結構、よこしまな心を持って、生きていますよ」と、うそぶいているが・・・・・
彼女は自身の「エッセイ集」の最後で、こう締めくくっている。
感謝
私が夜、眠る前に、
途中で寝てしまったりしないかぎり、
毎日、ささげていることばです。
私がきょう踏んだ地面よ、
ありがとう、
あなたは、私です。
私がきょう食べたものたちよ、
ありがとう。
あなたは、私にいのちをくれた。
あなたは、私です。
私がきょう見たけしきよ、
聞いた音よ、
触れたものたちよ、
そして、この星の上の
すべての生きものたちに、
ありがとう。
あなたがたもすべて、私です。
私がきょう会った人たち、
私のたいせつな人たち、
そして、この星の上の
すべての人たちに、
ありがとう。
あなたは、私です。
私、
私よ、
ありがとう。
きょうもまた、精いっぱい
生きてくれた、私にも、
感謝を。
天使さまがた、
いつもいつも、ありがとう。
あたたかいことばは、
私を、大きな世界に、
連れていってくれる。
そして、神さま、
ありがとう。
きょう起こった、
すべてのことに感謝します。
あしたがもっと、
すばらしい日でありますように。
この星に、
宇宙のすみずみに、
光が、あふれますように。
(鈴木重子 「天使のいる星で」 講談社発行)
よほど素直な人なのだろう。
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