術後5年半      06春




Dr.から、「あなたは、大丈夫ですよ」と太鼓判を押してもらってきた。御気楽患者は「大丈夫」という言葉から、完治したと思っていた。


大丈夫なのに、どうして検査を受け続けるのか、不思議と言えば不思議だった。

Dr.に「検査は術後5年間?10年?それとも死ぬまで?」と尋ねたことがある。
しかし返事を、もらえなかった。


「再発したら、どんな症状が出るんですか?」と尋ねたこともある。
視力障害が出ます」と言われた。
Dr.が思っているほど、私は勘がよくない。視力障害は、複視も視野狭窄も含んでいると思っていた。


視力障害って、複視のこと?それとも視野狭窄のこと?
いいえ、視力障害です
Drに遠慮して、それ以上、聞けなかった。




2005年10月、また病院を替えた。

新しい医師から、視力障害は視力を失うことだと教えてもらった。文字通りだ!!


病院を替えた理由は、いろいろあるが、長年、通院していた知人が、末期癌になるまで気づいてもらえず、相次いで亡くなったことが、大きいかもしれない。

知人は、癌で受診していたわけでもないし、私が通院していた病院とも関係はない。
ただ、その人たちの死から診療のマンネリ化は、危険だと思った。

人間ドックで出会った受診者に知人の話をしながら、ふと頭をよぎったのが、「新しい風に吹かれよう」ということだった。以前から、「閃き」で助かったことが何度かある。

通院がいつまで続くか見当もつかず、閉塞感を感じていたのも事実だった。私は精神的にも肉体的にも閉ざされた状態は苦手なのだ。



元の病院に手術時の資料がマイクロフィルムで残されていると、Dr.から聞いていた。紹介状も持たず、ふら〜っと元の病院に戻った。


5年も経つと、当時の医師は誰もいなかった。
新しい先生には、これまでの経緯を包み隠さず話した。
Dr.のことを知っているそうだが、私の話を笑って、好意的に聞いてくれた。ありがたかった。



3月23日、MRI検査を受ける。


新築間もない外来棟で診察を待っていた。
診察は2時間ほど、遅れていた。Dr.との思い出が頭の中を走馬灯のように駆け巡る。
窓の外は激しい雨。そのうち雷まで鳴り出した。すべてを洗い流すような激しい雨に過去と決別しようと思った。
白い雨脚を見ながら、新しい出発を自覚した。


診察室では、
どのように説明を受けてきましたかと尋ねられたが、Dr.の「あなたは大丈夫です」しか思いつかなかった。

大丈夫じゃあ、ないですよ!再発してますよ!
手術の時に、視神経の辺りも、電気メスで処理して再発しないようにするんだけど、とり残しがあったんでしょう、だから、再発したんです

先生は若くてパワフル。ジャニーズ系といった感じで好感が持てる。

○○先生が、「大丈夫」と言われたのは、「治療しなくても、当面、大丈夫」という意味だと、思いますよ
Dr.の「大丈夫」まで解説してくれた。


「再発している」と言われたが、患者としての生活は今まで通りだ。病状の伝え方は、医師によって違うのかもしれない。。。


「患者を、無闇に心配させない」これが、Dr.の治療方針だったのだろう。Dr.はパターナリズムの医師なのだ。

患者には「知る権利」と「知らされない権利」がある。
知らされない権利は、知る権利を当然とした上で、患者が告知を望まない場合を言う。

悟りの境地から程遠い私は、まず知る権利を大切にしよう。
これは、いざという時の心構えにも繋がるはずだ!!




     術後6年      
'06夏
                

7月4日、受診。

腫瘍の状態について、詳しい説明を聞くこと、これが今回の受診の目的だ。私も少し賢くなった。

先生は一生懸命、質問に答えてくれる。その熱さが、患者に伝わってくる。


○○先生とは、説明の仕方が違っただけなんですよ。
手術によって、白く写る部分ができたり、全摘できたと思っても、残っていたりで、白く写ってる部分は、頭を開いてみないと、どちらか分からないんです。
素人にもよく分かるように言ってくれる。丁寧な説明にお礼を述べた。

3年間の写真を比較しながら、視神経の周囲の白い部分を指差して、これが腫瘍の疑いがある部分だと教えてくれた。


なるほど、これだから、Dr.も完治したと断言できなかったのだ。
白い部分に変化があれば、腫瘍の再発だとわかるので、今後も、経過観察していく。


前の病院から、MRI写真を借りてきた。写真の貸し出しは、デポジット式になっていて、返却すれば、3000円戻る。診察なしで、受付で借りられた。

これには、先生も看護師さんも、驚いていた。
「こんなやり方っていいなあ。うちはこんなやり方じゃないよね。」
「返さなかったら、3000円で、この写真が手に入るのって、安いよねぇ!」
「うん、それは安いなあ〜」
「これ、コピーかな?」と言いながら、看護師さんが、写真をしげしげと見ている。


二人とも、他の病院の様子が、気になるらしい。興味津々だ。
旧態依然とした部分を脱ぎ捨て、病院も新しい感覚や価値観でどんどん変化している。若い人は変化への対応が早い。気がつくと、そこに老け込んだ自分がいた。生涯30歳のはずなのに。。。


デポジット式、大賛成!!」の私は前の病院に協力しようと、1時間余り電車に乗って、その日のうちに写真を返却してきた。蒸し暑い中、病院を、「はしご」?した1日だった。