21世紀のエネルギーはどうなる?(1)


 和歌山県西部、日高郡日高町に原発を建設する計画があった。現在その計画は頓挫しているが、アメリカのエネルギー政策の転換とともに、ふたたびこれが息を吹き返さないともかぎらない。かつての原発建設予定地の30km圏の住民組織が、現在のエネルギー事情がどうなっているのかについての学習会を、5月の18日(2001年)の夜に開催した。以下はその学習会で行った講演の内容である。会場は御坊市の市民文化会館。

1 エネルギーは「文明の血液」

● 文明の歴史ほぼ1万年
  • 少し大げさだとお思いかもしれませんが、まず文明の話からはじめさせていただきます。文明とは、平たく言えば人間による「環境の人工化」のことです。人々は、くらしの安全と、安楽と、便利さを求めて、文明の生活に踏み出しました。およそ1万年前のことです。具体的には、そのころ、農耕や、牧畜がはじまったのでした。
● エネルギーは文明社会を支える血液
  • 環境の人工化のためには、エネルギーが要ります。まず森を切り開いて畑や牧場をつくらなければなりません。そこで使ったエネルギーは、はじめ人力、ついで家畜の力でした。これらは実は太陽のエネルギーなのです。
  • 少し理科にくわしい方は、容易にご理解いただけると思いますが、私たちが摂取する食物は、もとはといえば植物が自分の体に蓄えた太陽エネルギーです。動物も人間とおなじように、活動のエネルギーを、もともと植物に依存しています。ところが人間は植物だけでなく、そんな動物までいっしょに食ってしまって、自分のエネルギー源にしています。人間ほど、何でもかでも、無差別に食ってしまう動物はありません。
● 風車と水車
  • ずっと時代が下がると、人間は環境の人工化のために機械の力を使うようになりました。2000年ほど前のころからでしょうか。風車と水車です。風車は風の力でまわります。風は太陽エネルギーが地球に到達して、空気を暖めるために起こるものです。水車は高いところから、低いところに流れる水の力でまわります。その水はといえば、太陽エネルギーによって、海や川の水が蒸発して空にあがり、雨として山岳地帯に降ったものです。ここでも「文明の血液」は、太陽エネルギーでした。 
● 「太陽文明」から「化石燃料文明」へ・産業革命
  • さらに時代を下りましょう。いまからわずか200年あまり前のことです。18世紀の中ごろに、産業革命がはじまりました。それから100年あまりの間に、産業革命は、いまの先進諸国を覆うようになります。そのときの中心的な技術は、蒸気機関でした。そしてエネルギー源には、石炭が使われたのです。
  • 石炭は地中から掘りだしたものです。常時太陽から降り注いでいる太陽エネルギーとは性格がちがいます。この種のエネルギー源を「化石燃料」といいます。化石燃料は、使えばいずれなくなりますから、「再生不能エネルギー」ともいわれています。さきの太陽エネルギーは、使ってもなくなることのない「再生可能エネルギー」です。
  • 人間の文明は、化石燃料を使うことで、狭い空間で、大量のエネルギーを、爆発的に放出させられるようになりました。こうして動かす機械はとてつもなく強力で、産業革命とともに、人間がつくり出す人工環境の規模は、画期的に大きくなったのです。環境破壊も起こるわけです。
  • ここで産業革命以前の時期を、「太陽文明」の時代と呼ぶことにしましょう。これは長い間つづきました。文明1万年の、ほとんどの期間は「太陽文明」であったのです。ここでは産業革命が起こって以後の文明を、「化石燃料文明」と呼ぶことにします。「化石燃料文明」は、はじまってまだ200年あまりにすぎません。
● 石炭から石油へ、さらに天然ガスへ  
  • 19世紀の後半になると、石炭に石油が加わりました。20世紀になるとともに、次第に主役は石油に変わっていきます。理由は主として、石炭という固体より、液体の石油の方が、運搬が容易であったからです。そして20世紀後半になると、これに天然ガスが参入します。しかし化石燃料としての本質には変わりはありません。いずれも再生不能エネルギーです。
  • 化石燃料は、みんな炭素を含んでいます。だから燃やしてエネルギーを取り出すとき、かならず燃えかすとして、炭酸ガスが出ます。これがご承知のように、いま地球環境問題の最大のものと考えられている地球温暖化問題、もう少し科学的にいうと、気候変動問題の元凶です。石炭、石油、天然ガスを燃やしたときにでる炭酸ガスの量は、得られるエネルギーあたりで比較して、10:8:6くらいです。石炭は最も罪が深く、どちらかといえば天然ガスは、罪が軽いことになります。
● 原子力の登場と「原子力文明」
  • 20世紀の後半には、原子力(核燃料または原子燃料)が登場します。これは化石燃料ではなく、原爆と同じ原理で、ウランの原子核に潜んでいるエネルギーを取り出すものですが、再生不能エネルギーであるという性格からすると、化石燃料の同類だといってもよろしいでしょう。燃料のウラン、これも使えばなくなるのです。使ってもなくならない太陽エネルギーのように、気楽なものではありません。おまけにご承知のように、何とも厄介な放射性廃棄物が必然的に生まれます。
  • 原子力エネルギーを血液とする文明を「原子力文明」と呼ぶことにいたしましょう。20世紀の中ごろには、この文明の未来が薔薇色だと考えられた時期もありました。いずれ「化石燃料文明」に替わって、完全な「原子力文明」の時代が来るという雰囲気でした。しかしご承知のように、この文明は現在失速中です。先進国ではいつまでも原子力にこだわっているのは日本だけでありました。もっとも、さきほどアメリカに変な政権ができて、またまた原子力だなどと、時代錯誤なことを言い出してはおりますが。
● 「太陽文明」への回帰は論理的な必然 
  • すでに申しましたように、化石燃料も、原子燃料(ウランなど)も、使えばなくなる「再生不能エネルギー資源」です。そうだとすれば、エネルギーがなければ文明は機能しませんから、19世紀、20世紀の「化石燃料文明」「原子力文明」は、いずれは元の「太陽文明」に回帰せざるをえないのではないでしょうか。
  • 私がこう申すのは、実は時々刻々太陽から地球に降り注いでいる太陽エネルギーの量が膨大なものであるからです。現在の人類が文明の名において使っているエネルギー総量の最低で1万倍はやってくると、計算の結果が示しています。このことを逆の言い方で言ってみましょう。人類の文明を「太陽文明」に回帰させるためには、太陽から来ているエネルギーのわずかに1万分の1を、文明が使いやすい形に変形してやればよいということです。理論的には、「太陽文明回帰」は、決してできない相談ではありません。
● 「資源環境」と「廃棄物環境」
  • ここでちょっとだけ、しんどいお話をさせてください。人間環境は、「資源環境」、つまり人間社会に資源を提供してくれる環境と、「廃棄物環境」、つまり人間社会が排出した廃棄物を処理してくれる環境との二つの側面に分けて考えることができます。人間は、環境からその一部を資源として勝手気ままに取り込んで、文明をつくってきました。使ったあとの廃棄物は、また環境に、いままでは洗いざらい、なにも考えないで排出してきたのです。
  • 人間活動の規模が小さい間は、いわば許容範囲で、それで支障はなかったのですが、20世紀の後半になって、「資源環境」も、「廃棄物環境」も、どちらもパンクしそうだということがわかってくることになります。このまま行くと資源が枯渇するぞ、廃棄物に埋もれて、ゴミの中で窒息してしまうぞというわけであります。
● パンクの時期はいつ?
  • それでは21世紀からあと、このままいくと、この二つの環境のパンクの時期はいつごろやってくるのでしょうか。まず資源環境です、本当はエネルギーだけでなく、すべての資源について総合的に考えなければなりませんが、ここでは一応、「文明の血液」・エネルギーだけについて考えてみましょう。化石燃料、原子燃料とも、まだそう簡単には枯渇しはしません。みなさんの感じとは違うかもしれませんが、化石燃料は、あと1000年くらいは大丈夫です。原子燃料については、技術の発達も考慮に入れれば、まだ1万年くらいはつづけられます。
  • ところが問題は廃棄物環境です。こちらはパンクの時期が目の前に迫っています。そのいちばんの典型が、気候変動問題、つまり地球温暖化問題ですね。オゾン層の破壊問題、ダイオキシンや環境ホルモンなどの化学汚染の問題もあります。これらいずれも、現在すぐからはじめ、遅くとも21世紀中に片をつけなければ、人間社会にカタストロフがやって来るということが、ますます明瞭になってきました。
● 太陽文明回帰の目標時期は22世紀初頭!
  • きょうのお話に関連しては、ことを地球温暖化問題にかぎりましょう。つい最近、4月のはじめですが、IPCCと呼ばれる科学者集団が第3回目の報告書を、正式に採択しました。IPCCの正式な名前は「気候変動に関する政府間パネル」といいます。国連が組織した世界各国の政府関係の科学者、例を日本にとれば、気象研や国立環境研といったところにいる科学者たち、全部で3000人ほどの集団です。地球温暖化問題に関して、この集団の言い分を信じないでは、ほかに信じるべきものはありません。
  • この報告は、産業革命以来、地球の平均気温が急激に上昇していること、そしてその上昇には巨大化した人間の行動、つまり炭酸ガスをはじめとする温室効果ガスの排出が主役を演じているということを断言しています。なにぶん未来のことを予測するのですから、天気予報を考えていただいてもお分かりのように、不確かさがつきまとうのは、どうしようもありません。しかし1990年の第1次報告、95年の第2次報告、そして今回の第3報告と、IPCCの口ぶりには、だんだんあいまいさが少なくなって、ついに断言口調になるにいたりました。
  • こうしたことを勘案すると、結局つぎのような見通しで行動をするしかないことが分かります。私たち人類は、21世紀の中ごろには、「太陽文明回帰」への確実な足取りを確認する、そして22世紀には完全にこれを実現に導くということです。あと50年を第1ステップとする100年計画ですね。
  • それにつけても、「廃棄物環境」をこんなことにした最大の責任国のアメリカに、共和党の政権ができてしまって、大統領が早々と、京都議定書離脱だなどと、反人類的な政策を打ち出してきました。「京都議定書はアメリカのためにならない」「途上国にも炭酸ガス削減義務を負わせないのは不公平だ」などといっています。いったい何を考えているのでしょう。開いた口がふさがりません。ブッシュ政権の行動は、人類にとって、憂うべき事態だと、私は感じております。
(21世紀のエネルギーはどうなる?(2)につづく)

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