第六十六話
連れ立てば ウラジロ笑ふ 急坂楽し

   前述(第六十五話)した、幡豆町(愛知県)から名張への飛来、名張から撫養町(徳島県)への飛翔を地図上に表示してみた(下図参照)。   
結んでみると奇しくも一直線になる。更に伸ばしていくと、南九州・沖縄がその線上につながってくるのが面白い。南下(秋)とは言うものの、正確には西南西方向である(北上は春)。
  かくして12月9日、事務局(アサギマダラを調べる会)メンバー、栗田さんから次のようなコメントが届いた。『・・・阿部さんと、藤井さんからの情報に基いて、三ヶ根山で標識したSRTマーク個体の三重県への移動が分かりました。

褐色の斑点;0.5mm大の斑点はマーキングした放蝶時には無かったとのことです。
阿部さん、再捕獲情報と画像送付、ありがとうございました。藤井さん、画像の確認、ありがとうございました。以下、移動情報として示します。 

昨秋、室生で観察した幼虫。三齢以上であれば、蛹に成り得なかった可能性がある。関西では若齢幼虫でないと越冬できないと聞く。撮影;北際明博。
移動情報
愛知県幡豆町三ヶ根山 10/9 → 三重県名張市つつじヶ丘 10/14(西南西方向に、約96km移動。移動日数は5日間)
  ・・・リストを見ると、多くは海岸に沿って移動するように見えますが、本例は、紀伊半島に食い込むように移動したように見え、興味深く思いました。実際には、このような例がかなりあるのかもしれないのに、多くの標識者が海岸地帯で待っているので、そこでの再捕獲が多くなる可能性も考慮すべきかもしれませんね。

本例は、再捕獲時の画像を4枚送っていただきました。   

わずか5日間の移動ですが、96kmという距離を動いたからでしょうか。確かに変化を認めることができました。
 破損は「なし」「なし」。
 翅面鮮度は「中の中」「中の下」に。
 翅縁白毛は「3割残存」「1割残存」に。
 また、再捕獲時には、左前翅に0.5mm大の褐色の斑点が付着していましたが、これは標識時にはなかったものです。・・・ 』と。
 ところでマーキング活動は、現在では全国に広がっており、長距離移動のみならず短距離移動も、本土内で頻繁に起こっていることが解ってきたようだ。

同じく室生で加納さんが見つけられたアサキマダラの卵である(白い斑点)。撮影;加納康嗣。
三重県ではほぼ全域でアサキマダラは観察されている。   

同じく一齢幼虫と食痕。食痕の周りの白っぽいのが、毒っぽくて気掛かりであるが。
従来「少なくとも関東地方から西の地方では、太平洋岸を西進して渥美・知多半島から伊勢湾上に飛び出し、神島を経由して志摩半島に渡り、そのまま紀伊半島の東岸を南下しつつ、南端の和歌山県に至る、アサギマダラ移動の大動脈とも言うべきルート《アサギマダラ東海〜南海ハイウェイ》が存在する・・・」と考えられてきた。
 前記栗田さんの指摘に、「・・・紀伊半島に食い込むように移動したように見え、興味深く思いました。実際には、このような例がかなりあるのかもしれないのに、多くの標識者が海岸地帯で待っているので、そこでの再捕獲が多くなる可能性も考慮すべきかもしれませんね。・・・」とあるように、今後の当地域での益々の捕獲観察が待たれるに違いない。
 国津百々谷、赤目渓谷、室生寺叢林、長谷与喜山等にキジョランが存在するのであれば、無視できない状況にある。 

ここまで来てようやく、遅ればせながら事の成り行きが理解できた。加納さんの10月末のメール「・・・驚きました。数日留守をしている内に、阿部さんところでは大変なことが起こっていたのですね。何と言ってもフジバカマが大群を一次休息に誘ったのでしょうね。再捕獲とは、壮挙ですね。おめでとうございます。・・・アサギマダラのルートである可能性があり、これからの調査が楽しみです」。そして12月始めには「・・・アサギマダラの秋の渡りの新ルート解明を記念して、与喜山天神山の棲息調査を行います」と企画、それなりの理由があったわけだ。


やがて、このような鮮やかな模様がはっきりしてくる。二齢幼虫か。撮影;加納康嗣。
加納さん、あれこれとご配慮頂き有難うございました。

蛹の抜け殻;左の方を上に葉っぱの裏面に付着し、ぶら下がっているわけである。提供;田中洋子。

又、キジョランの棲息調査にご参加頂いた皆さん、改めまして有難うございました。
  振り返ってみると、特に与喜山原生林でのキジョランの群落には目を見張るものがあった。「・・・こんなに見事な群落が、在る処にはあるんだ・・・」と感銘した。のみならず落雷により倒壊した大木の、何メートルにも及ぶ真っ黒焦げの焼け跡も印象深かった。勿論百々、室生、与喜山でのアサギマダラの卵、幼虫、食痕やキジョランの実、種。駐車場探しの苦労・・・すべてが楽しい観察会でした。重ねがさね、有難うございました。

 “連れ立てば ウラジロ笑ふ 急坂(サカ)楽し”



[このページの先頭へ]

[トップページへ]