この秋は

     

     

     

     

     

     

    よべのつき二〇〇九

     

     

     

    昨年は行けなかった伊賀上野城の観月薪能に、今年は行ってきた。

    雨の続く幾日かだったので心配をしていたが、当日は朝から晴れ。

    昼過ぎに少々曇ったが、留守番隊の夕食を途中まで作って

    (仕上げは息子に頼んだ)出かける頃には青空。

    開演は18時、開場は17時ということで、ちょっと早めの16時に出発、

    途中ちょっとつまむものを購入したり、恒例の娘とのキョロキョロが始まった。

     

     

    陽にむかふフロントガラス秋の夕

     

    秋うらら籠に飛び込むチョコレート

     

     

    市役所の駐車場は一般の駐車は通常は有料だが、今日は管理人さんが

    にっこり笑ってそのまま入れていただいた。

    お城の駐車場は案の定いっぱいになっていたようで、

    どんどんこちらに車が流れてくる。

    上野市役所は上野城のすぐそばで、提灯の連なる道を

    「夜になったら灯るね」と帰りのことを思いながら

    てくてく歩くのがまた楽しい。

     

     

     

     

    近所の高校の吹奏楽部の練習する音が流れてくるのも、中学校で

    チューバを吹いている娘には嬉しいらしい。

     

     

    よく響く金管楽器夕紅葉

     

     

     

     

     

     

    開場時刻ちょっと過ぎに着いたら、舞台近くの茣蓙席の最前列の真ん中当たりは

    すでに埋まっており、その後ろ五列ほどは席が取ってあった。

    後列の椅子席はすでにほぼ満席に見え、座布団を持参していた我々は

    最前列の上手、橋掛かりの前に席を取り、ちょっとうろうろ。

    本日のプログラムを受け取り記名したり、お茶席でお薄をいただいたり。

    「今年のは苦くないね」

    と娘。このお茶の味は昨年と変わらないが、

    彼女はこの春から朝の紅茶の砂糖をちょっとずつちょっとずつ減らし、

    今はノンシュガーで飲んでいるのだから、お薄がいつもより苦くないのは

    あたりまえ。「あら、オトナね、私。」なんて嬉しそうだったが、

    わたしの菓子まで手を出そうとするあたりまだまだ。

     

     

     

     

     

    眼福のたとへばまろき月の菓子

     

     

    自席に戻りそれでもまだ時間があるので持参のおにぎりを食べたり

    まだ日のある城の様子を写真に撮ったりしながら待つ。

    娘ももう慣れたもので、きちんと時間つぶしの道具を持っている。

    18時きっかりに篝火に火が入り、薪能が始まった。

    月もいつもの場所にいつものようにのぼり始めた。

     

     

     

      

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    笛方に誘はれ出づる三五月

     

    月のぼる美しき手の鼓方

     

    秋冷や面の下ののどぼとけ

     

    松が枝に捉まへられし大き月

     

    月今宵小面まばたきしたやうな

     

    うつむけば目瞑るをんな宵の月

     

    月の蛾の降り来る能の篝かな

     

    動かざる芸の眩き月今宵

     

    ゆるゆると火こぼす月の篝かな

     

     

     

      

     

     

     

    月真白川辺の鳥の夢いくつ

     

    月天心未だ眠らぬ無人駅

     

    幽玄にいつとう遠きすいつちよん

     

     

    上演開始から三時間、開場からだと四時間戸外に座り込んで

    母も娘も冷え切ったので、ちょっと寄り道して

    温かいものを体に入れてから帰った。

     

    お茶をいただいているときも、車が国道を走っているときも

    月はしづかに空に在った。

    いつまでこうしてふたりで出かけられるかな、月の夜に。

     

     

     

     

    来年もよい月夜が巡って来ますように。

     

     

     

     

     

    2009.10.3  Photo / 文 / 句: 坂石佳音

     

     

     

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