よべのつき 二〇〇八
【 葉 月 】
朔日 新月やたましひきつと水のいろ
二日 二日月きうと引き抜く草の茎
三日 時計屋の親父の胡坐三日月
四日 乱丁のうさぎの絵本四日月
五日 夕月や十五の髪のゆるらかに
六日 蟷螂の祈り紅緋の六日月
七日 鳥籠のかすかな軋み宵の月
八日 そらいろの団体列車夕月夜
九日 折つて出す往復はがき上り月
十日 月の舟星乗せようか乗せようか
十一日 老犬のしづかな顎月皓々
十二日 月昇る点滴のもう終はるころ
十三日 ドーナツの穴の向かふのけふの月
十四日 梅干と一椀の粥小望月
十五日 草ぬちのたれかのボール月皓々
どこまでも飛んで行きたき飛蝗かな
龍を待つ水月映ゆる雲流る
月今宵ホットミルクに陶の匙
月天心最終バスのエンジン音
髪結はふ藍色のシュシュそぞろ寒
さらさらと明月の声降るひたひ
花畑あるかもしれず月の裏
十六日 十六夜の雨猪の佇つ切通し
満月の歌のこぼるる雲間かな
月の雨いつかの朝咲く種に
十七日 母の影子の影立待月のまへ
宿題と灯を分かつ夜業かな
吊り革の二列の無聊十七夜
十八日 櫨の木の百羽の雀居待月
月しづか紙飛行機のe-mail
封緘の蕾の一字月の雨
十九日 臥待の国ぢゆうの龍集く空
二十日 更待やオーボエ奏者の丸眼鏡
二十一日 月降るや三等賞の眠る屋根
二十二日 梨剥くやけふもかなはぬ願ひこと
よく笑ふ母と子と母むかご飯
二十三日 ばあちやんの菜切包丁下り月
二十四日 真夜中の月深爪の薬指
二十五日 月白や般若の面の女眉
暁月夜小面の黒目がち
二十六日 そつと撫づる表紙の綴れ月無き夜
二十七日 有明や刷毛目正しきけふの空
二十八日 朝月や卓の真中の醤油さし
晦日 八月晦日ついてをればよかつた
つごもりやゆめにうつつに月の雨
【 長月 十三日 】
後の月
十三夜県境に待つ人と犬
後の月どこかに狐ゐたやうな
>゜))))彡 >゜))))彡
句: 坂石佳音
2008