よべのつき 二〇〇七

 

【 葉 月 】

朔日     ついておいでと新月にこゑかけて

二日     二日月紅差し指の絆創膏

三日     初月や女三代並む厨

       パン捏ねる男の腕三日月

四日     大ぶりの揃ひのカップ四日月

五日     五日月運動場の得点板

六日     よく当たる銀剥がし籤六日月

七日     七日月子の絵の夜に浮かびをり

八日     八日月太平洋に流す瓶

九日     六尺の歴史年表上り月

十日     夕月や拳も頬も痛くつて

十一日    ぽつたりと落ちさう十一夜の月真赤

十二日    一葉のために磨る墨宵月夜

十三日    月やさしジェットコースターの輪のむかう

十四日    月の雨焔の花の立つ畦も

十五日    明月や半分野良で隻眼で

月皓々膝を抱へて眺めをり

十五夜の少し隙ある月の端

しばらくの無音良夜の女どち

三五月無口の草を照らしをり

どの星もしづかに光る良夜かな

月好みさうな瓶置く夜半の窓

屋根瓦みな濡れてゐる月夜かな

十六日    彩雲の生れては消ゆる月の前

十六夜や大きく狂ふ鳩時計

十七日    立待や左手で掻く右の肩

十七夜つねより猛き雲の列

月今宵手帳に落つるペンの影

山鳥の月光近く寝ぬるかな

    満月に向かひメールを飛ばしけり

秋ほろほろグレーチングの隙間にも

昨夜の月残る草間の小瓶かな

十八日    軟膏の馴染みの匂ひ居待月

秋霖や枕を叩くおまじなひ

十九日    銀色の鉛筆削り寝待月

    月うさぎ皆大の字の雨夜かな

二十日    カステラに端つこ二つ夜半の秋

亥中月インコもねごといふんだね

二十一日   三七の月ポケットにとんぼ玉

二十二日   降り月フルマラソンに小数点

二十三日   半月や海より深き神の杯

二十四日   宵闇やあなたの雨の今届き

二十五日   星月夜魚の形の山の影

二十六日   鳥籠のかなしきたまご残り月

二十七日   朝月やひらひらひかる箒の柄

二十八日   明時や雨に鳴く虫鳴かぬ虫

二十九日   有明や昨夜も眠らぬ抱き人形

  三十日    汁物にとろみ八月晦日かな

         黎明や月のにほひのミルクティー

 

 

【 長月 十三日 】

 

後の月    湯上りのあはきかほはせ十三夜

十三夜どこかでをとこ咳をする

後の月爪立ち歩む夢の端

 

       >))))   >))))

 

句: 坂石佳音

2007.oct

    

 

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