よべのつき 二〇〇六

 

【 葉 月 】

朔日     葉月朔日不器用な調律師

二日     二日月正座の母の糸切歯

三日     三日月に結び文する薄暮かな

四日     四日月しなやかに脱ぐけふの澱

五日     弦月や母思ふ子の弾くピアノ

六日     月の舟おとぎばなしのすぐ終はり

七日     上弦やゆつくり帰る救急車

八日     半月やシュークリームに蓋と底

九日     俎板のかすかな湿り夕半月

十日     月の雨皿小さしとオムライス

十一日    月の鼻歌ひつかかるラヂオかな

十二日    盈月やゲームの中に小さき村

十三日    にはたづみ月のないしよのかたちかな

十四日    待宵や海はどつちと貝に問ふ

十五日    来年をうたがはぬ子や月に雲

中秋無月風走る風走る

マンモスと同じ空見る良夜かな

正確に波打つ胸とゐる良夜

十六日    熱の子の美しき頬月天心

十六夜の水散薬のいちご味

十七日    立待のたれもいさめぬ夜爪かな

十八日    天窓に月がゐるよと呼ばれけり

しりとりのまたはじまりし居待かな

十九日    寝待月女性専用車両より

街猫と抜きつ抜かれつ月の道

二十日    更待の金魚と話す女かな

二十一日   うつくしきもの月の夜の灯取虫

二十二日   半月や紙ナフキンに銀の匙

二十三日   月の舟猪そつとゐる旧街道

二十四日   豆本に姫と翁と鬼と月

二十五日   ゆびきりしたの月そつと昇る夜半

二十六日   くちづけの角度の時計朝月夜

二十七日   有明や手乗りの鳥に猛き爪

二十八日   身に入むや唐鋤星の在す朝

二十九日   あけぼの月銅の裳裾の盧遮那仏

  三十日    しばらく鳴る非通知電話晦日月

 

【 長月 朔日 】

 

九月朔日   大輪の朝日蕾の朝の月

 

【 長月 十三日 】

 

後の月    十三夜納戸の奥にソノシート

十三夜うたはぬ蟲の棲む野原

 

名残月曠野の黙を照らしをり

 

白墨の横断歩道十三夜

 

 

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Photo / 句: 坂石佳音

2006.Oct

    

 

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