よべのつき 二〇〇四
【 葉 月 】
朔日 朔の月引っ掛け飛行機雲びゅん
二日 二日月西のむかふにある東
三日 てふてふあがれ柿の木に三日月に
四日 叱られて父を待つ辻四日月
五日 若月やけふ四度目のすゝぎもの
六日 今眠る鳥目覚む花六日月
七日 弦月の櫂のこゑ問ふ雨夜かな
八日 宵月や湯屋より出づる豆鉄砲
九日 半月のかうべをたるゝ静夜かな
十日 薄雲のジユレにゆらりと十日月
十一日 消え失せし筈の妹昼の月
十二日 盈月の亜麻色の影雨あがる
十三日 月天心かしこの後も置かぬ筆
風の窓頬杖をつく月夜かな
十四日 触れもせで触れられもせで夜半の月
芋名月プリンほっこり焼きあがる
十五日 にはたづみまだ空にある無月かな
ワイパーのかなはぬ帳月の雨
ののさまに雲たうたうの良夜かな
十六日 十六夜の雨舐めてみるしゃらと鳴る
十七日 十七夜つま立ちて待つ在所かな
立待の少し遅れて街の底

台風一過月皓々星鏘々
有明やほのかに温き牛の角
十八日 レコードの歪みも愛す居待かな
十九日 臥待の月にさらしてのどぼとけ
つぶ八歌仙「のどぼとけの巻」
(発句) 臥待の月にさらしてのどぼとけ 月・秋 佳音
(脇) 夜を徹して零るる小萩 秋 括弧
(第三) キューポラの街より遠く離れゐて 雑 司馬
(四句) 従軍記者の拾ふ薄衣 夏 いるか
(五句) 恋文のビンを泡立つ磯波に 雑 ソセイ
(六句) 流れて冬のアリューシャンへと 冬 弁慶
(七句目)花鏘々四方ほのぼのと明けわたり 花 佳音
(挙句) 腕の中で見る春の夢 春 ぽぽな
「つぶ八歌仙」:つぶやく堂の皆さま
二十日 雨やなあと廿日亥中の皿小鉢
二十一日 蓮の実とぶ昨夜も月なき水の面
二十二日 五位鷺教授頭上に紙の月
二十三日 秋天のポケツト薄荷飴ざらら
月天心小猫の耳に問ふ呪文
二十四日 月の舟明日帰るよとeメイル
二十五日 宵闇や使はず終る栞紐
二十六日 有明の雲の真中に目覚めけり
繊月の切先に来よ秋の蝿
二十七日 つとめてのイカロス二十七夜月
二十八日 あけぼの月夢ゆ笑ふや女の童
二十九日 誰がポケツトに薄羽の今朝の月
三十日 銀漢や永遠に作れぬ黒絵具
鳩笛を吹いて眺むる東かな
ゆるらかにゆららかに戀よべのつき

【 長月 朔日 日蝕 】
交食や児に齧らせる林檎の実
見得ぬ月見たる長月朔日かな
【 長月十三夜 】
<NOCHINOTSUKI>
日めくりのおもはぬ薄さ後の月
片見てふまた善き哉と今年酒
月代の雲の迅さや十三夜
夜の影を恐いと泣く子栗名月
すこしだけたれかをおもふ月名残
二夜の月雨子風太をしたがへて
深秋の釘傾ぎたる衣紋掛け
目瞑れば身ぬちは光よべの月
2004.10.29 Photo / 句: 坂石佳音