葉月 よべのつき 二〇〇三
朔日 八朔の闇もてあます微熱かな
二日 二日月夜は眠らずや変声期
三日 三日月の錘百年の孤独かな
四日 鬢に繊月夜目遠目ゆらゆらら
五日 四日月研いでくれろと肥後守
六日 皓月を冠に風の八尾かな
七日 偃月やひとり逆行くまわれ右
八日 半分の月半分のセピアフォト
九日 窓ガラス眠し九日月夜かな
十日 うたひたき骨ほの朱し上り月
十一日 秋の雷霽月欠けてしまひけり
十二日 水曜に生れて泣き虫月の舟
十三日 月天心貨車百輌のいまむかし
十四日 追いつけぬ人ばかり好き小望月
十八日 あをよりもあをきの降るや居待月
十九日 まづ星をしとどあびたる寝待かな
二十日 亥中月まつとしきかばまどふ指
二十一日 虧月はんなり母の手の塩むすび
二十二日 月の弓駱駝は夜をはみにけり
二十三日 右手左手運命ふたつ真夜の月
二十四日 宵闇のこごり流るる夜汽車かな
二十五日 残り月龍ひとふりを納む峰
二十六日 猫背のあかりぬばたまの月無き夜
二十七日 明の月贄待つ枝をかすめたり
二十八日 朝月をつつき泣かせて天邪鬼
二十九日 霽月やまた恋文を書いてをり
たくさんは一そして零よべの月 佳音