里山から



西宮船坂ビエンナーレ

里山みらいじゅく




2010年10月

 



十月は最初からあれこれ予定が入っていた。

ことに23日の『里山みらいじゅく』は早くから申し込んで楽しみにしていた。

月半ば、早朝に携帯電話に句友から「俳句の朗読をしてくれないか」とメール着信。

(予定していた人が入院してしまったため穴が開いてしまうらしい。)

その日(16日土曜日)は職場の書店の読み聞かせ会の日で、

9月はお休みをしていたので無理だと返事をしたが、

数日後の芭蕉祭全国句会の真っ最中にまたメールが届いた。

迷っていたら、横にいらした選者の俳人さんが、「おもしろいからやればいい」と

勧めてくださり、思わず「やります」と返信してしまった。

 

 

もう十五年も前、数年西宮市(門戸厄神)に住んでいた。仕事が西宮浜で、、

けっこうあちこちうろうろしたつもりだったが、行ったことの無かった

西宮船坂。もうちょっとで有馬という町に近い里山へは

メールを送ってきた句友の車で入った。

 

 

 

朗読の会までは時間があったので

いつもはボランティアスタッフで入っている若い女性と一緒に

手打ちの蕎麦をいただいた後、作品を見て、村の景色を堪能。

もう何年も前に、青山でもこんなイベントが有ったなぁとひどく懐かしかった、

 

参考:『Artist in Residence at IGA』

 

なによりも、景色が「出かけてきた」はずなのに、「家に帰った」ようでおもしろい。

 

 

 

 

 

こだま訪ふ茅葺の家秋ともし

 

  

  

  

  

 

 

会場に行ってみれば、入院してしまったという俳人氏は復活していて、

わたしは観客でいようかと思ったが、せっかくだから読まないかとお誘いいただき

甘えさせてもらった。

俳人、歌人と続き、しんがりの寮美千子氏の詩は

その声の中に「とぷん」と落ち込んで

ここちよく揺さぶられているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

会を終えて、九十九折れの夕焼けの道をバスで街へ下った。

振り向けばもう見えなかった、船坂の里。

 

 

 

案内をしてもらった洋子ちゃんの喉は、もう治っただろうか。

 

 

 

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2010.10.16

写真/文/句:坂石佳音

 

 

 

 

>゜))))彡 >゜))))彡  おまけ  >゜))))彡 >゜))))彡

 

西宮船坂ビエンナーレにて 朗読

 

◆挨拶

◆月詠みのこと少々、

 

 

旧暦の八月一日、八朔、新月がのぼります。

新月は太陽とともに移動するので見ることはできません。

ここから一日一日、月の出の時刻が日の出よりも遅くなり、

月が夜のものになってゆきます。

 

 

新月やたましひきつと水のいろ

二日月正座の母の糸切歯

 

叱られて父を待つ辻四日月 

 

主待つ飴色の犬上り月

 

そらいろの団体列車夕月夜

梅田すてんしよ半月の見え隠れ

月の鼻歌ひつかかるラヂオかな

 

 

時には雨で月が見えないことも。でも月はこの雨の上にかならずいます。

月の雨に洗われ、ますます深まる秋。

 

 

手仕事の美しき手ざはり月の雨

 

 十月の雨に始まる日記かな

葛の風ここから先は父祖の山

天地反して月の沁む刈田かな

手叩けば燃えあがる畦曼珠沙華

金剛の光の宿り花茗荷

 

露時雨米半俵を搗きに行く

とぎ水のにごりもやさし今年米    

南瓜割り笑ひ上戸でありにけり

  

飯を炊くにほひ秋刀魚を焼く匂ひ 

とろろ汁雨にほふ夜となりにけり

 

乳色の菓子舗のあかり小望月

待宵や海はどつちと貝に問ふ

 

 

山の端が白々とするのを胸躍らせて眺める夕、

みるみる山際を離れ、月は天に。

 

 

月の道子供にかへる膝小僧

望の夜のゆつくりはづす包み紙

ゆるゆると火こぼす月の篝かな

青蜜柑五体眠りの底にゐて

柚子坊ののたりと肥ゆる月夜かな

 

 

満月を過ぎても十六夜・立待・居待・寝待と秋の月は続きます。

今までの大きくなってゆく月とは違い、

降り月はすこしさびしいような気がすることも。

 

 

空つぽの似合ふ空き瓶十六夜

寝待月握つて開く微熱の手

 

秋風や待合室の絵本箱

うたた寝の少女のゑくぼ水蜜桃

 

月の舟砂糖の鳥の眼のつぶら

 

 

魂いくつこの家に棲むや鉦叩

すいつちよにつまづいてゐる写経かな

 

  灯を落す最終電車降り月

 

 

どんどん月の出は遅くなり、朝の空には紙のような月。

もう太陽に追いつかれそう。

 

 

有明やほのかに温き牛の角

朝月やよんべ生まれの大あくび

 

頻波の夜半の草原晦日月

 

 

 

三十日間の月の宴が終わりました。

月見には古くからのしきたりがあり、中秋の名月を見たら、

約一ヵ月後の十三夜の月(後の月)を愛でます。

 

 

十三夜旅の数ある土の笛

 

 

今年の後の月、十三夜は二十日、もうすぐですね。

お天気がよければ、・・・もし曇りでも雨でも、月を見上げてください。

月もきっとあなたを思っています

 

 

百の窓開く百の手十三夜

 

 

今日わたしは三重県は伊賀からこちらに参りましたが、

三時間もかけてきたにもかかわらず、景色にまったく違和感がないのです。

家に帰ったのかと思ったり。

そんな親しみのある景色とはいえここは知らない土地。

不案内なわたしを今日一日案内して、楽しませてくださった方に

一句詠ませていただきました。

 

 

  先達のうなじ見てゐる柿日和

 

ありがとう、洋子さん。

 

 

以上です。

ありがとうございました。

 

 

坂石佳音

 

 

>゜))))彡