直線上に配置

グミの花

フレーム

 グミの花が咲いた。ロシヤ民謡に乙女の心をグミの花に託して歌ったものがある。二人の若者に愛されて、どちらも傷つけまいと迷うと自分の気持ちも決められない。そのうなだれた様子が、巻き毛のグミの花と同じようだと歌う。なるほどグミの花はみんなうなだれている。
   ロシヤ民謡は延々と続く物語を謳いあげてゆく。われわれの世代は歌声喫茶の時代だから、気に入った歌を自分で歌詞もメロディーも覚えていて自分の歌唱力で歌う。このグミの歌も哀調を帯びていてた。どちらの若者をも愛するがゆえに、悩んで身を隠してゆく内気な乙女の気持ちに良く合っている。トロイカなども、日本の歌詞は「朗らかに鈴の音高く」と訳されているが、恋人を地主に取られたトロイカを御する貧しい若者の悲しみの歌だ。
 グミの花を見るたびにみんなうなだれて目立たないところが、よくできていると思っていた。ところが最近になって本当はグミの花ではないのだと聞いた。いわれてみると鶴の歌に秋が更けてゆくころにグミの花はない。