ブラジル見聞録       人間性と治安
パラグァイとの国境 
 とにかく雑然として雰囲気が隙を許さない緊張感をもたらす。バイクの二人乗りもタクシーだそうで、人も車もバイクも走り回っている。
 パラグァイは関税が安いので、品物をブラジルに密輸するのだが、国境の橋から投げ下ろすのを防ぐ網とそれを破る行為が、繰り返されている。
恵まれた自然環境
 美しい花が咲き乱れ、見上げるような大木も庭先の植え込みも花で飾られている。
 ジャングル内は赤道直下とはいえそんなに暑くなくて、それなりに明るく、着生蘭などもきれいな花をつけている。自然を見て楽しんでいると、熱帯の豊かさが草花や小動物を通して伝わってくる。
リオデジャネイロ
 スラム街が斜面を這い登っている。文盲率が高く、人口の把握も正確にはできていない。
 多くの大小の建物が建築途中で放置されているが、経済の変動で金がなくなって停止しているとのこと。落書きの多さも異様だ。
町の中の朝市
 豊富な果物などが安く並んでいる。ほかの項目でも見てきたように、花が咲き実がなり熟すのが同時なので、バナナもヤシも常に収穫できる実がある。
 新鮮なものがすぐ手に入るのが、蓄える気持ちを起こさせないのだろうか。
サンバショウ
 アルゼンチンでタンゴ、ブラジルでサンバのショウを覗いたが、サンバのほうが当然にぎやか。大柄で舞台せましと踊りまくる。リオのカーニバルを想像させるが、それのみが生活のすべてという説明にはなんとなく違和感がある。日本でもお祭り好きな人はいるのだから、同じなのだろうか。
ベレン
 アマゾンの河口だといわれても想像を絶する。河口の長さが300キロもあり、中洲が九州より大きなものがあるなんて、自分の目では捉えられない。
 また赤道直下なのに、そんなに暑いと感じなかった。もちろん暑い日もあるのだろうが、夜は布切れ一枚で寝られ、水浴が年中できれば、暮らしは楽だろう。
コパカバーナの海岸
 きれいな海岸で昼間は、観光客も含めてにぎわっているようだ。ただ治安が悪く、警戒している当局でも、死角になることがあるとのこと。
 たくさんの子供たちに取り囲まれ、傍目には子供が騒いでいるに過ぎないようでも、真ん中で身ぐるみ奪われて、子供たちはクモの子を散らすようにいなくなってしまう。こんな話を聞くと一人では散歩できない。
警戒している犬
 どこの家にも犬が飼われている。見学した農場主のお宅で、機械倉庫から覗いたとたん犬が吠えながら集まってきた。
 身を守るには犬が一番信用できるとのこと。警備員を雇っても、彼が仲間に取り込まれたりするし、作業員も強盗の手引きをしたり物を盗むこともあるとのことで、信用できない。
 日本人は勤勉で、教育程度も高く、農場も「大地の魔術師」と呼ばれるくらい立派に管理しているということだ。それが日本人たちの誇りでもあるとのこと。一方治安が悪くなり、犯罪も多く、スラム街や土地なし農民といわれる人達が勝手に道路端の農地を占拠している。
 4回も強盗に入られたとか、どんなふうに襲われたとか、早朝の町は危険だとか、被害の話は多かった。襲われたときに金を渡して助かるようにしておかないと、殺されるそうだ。警官も買収されやすく、刑務所もいくら増築してもあふれかえって収容できないので、軽い犯罪は在宅で社会奉仕させているそうだ。
 とにかく道端や家の前で人が座っている。たむろしているのでもなく、遊んでいるのでもなく、ただぼんやりと座っている姿が目につく。ポルトガルが現地人をいくら働かせようとしても、死ぬまで強制しても役に立たなかったそうだ。そのためアフリカから奴隷をつれてきて、開発したということである。
 この狭い日本で営々と生きてきたわれわれの価値観と、手を伸ばせば食べ物に不自由せず、寒さ暑さにも煩わされない巨大で豊かな原野に住んできた人達の価値観は、どこか違っているのだろう。これらは生態人類学の課題なのだろうが、貯え蓄積しようとするものと、あるものを取って暮らしてゆこうとするものの違いは、国の政治経済などの制度にも反映するだろう。
 この旅行の中でやはりカルチャーショック的な場面にもであった。農村を回り日本人社会に接したことで、過去の視察旅行より、より多くのことが分かったような気がする。