よべのつき 二〇一一
【 葉 月 】
朔日 八朔や畑に日の影月の影
二日 ゆるらかなヘカテーの衣二日月
三日 ひとつ他所向く八月の百合の花
繊月や疑似餌の魚のへの字口
大胆な母ちやん床屋三日月
四日 台風裡ひたひあづくる夜の窓
四日月柱時計の大きネジ
五日 夕月やたちまち終はる針仕事
大野分石食みし魚潜む川
六日 ていねいにたたむ便箋六日月
秋出水刈り残りたる稲あまた
七日 宵月や常に戻りし川の色
台風一過海目指し水奔る
八日 颱風往ぬ山峡の雲吸ひ上げて
おつきさま見たてふ児らのひたひかな
九日 月がゐるよと細き手にをしへらる
前掛けのポケットの鍵上り月
十日 たれおもふこころのかたち十日月
十一日 電線を抜け高々と町の月
上り月ふふふと笑ひ別れけり
十二日 宵月夜しばし眺むる湯のたぎり
天心の真白き月を観て眠る
十三日 乳房四つ並ぶ湯ぬちや宵の月
十四日 桂月や窓無き部屋のてる坊主
小望月飯粒拾ふ足の裏
十五日 三五夜の窓に携帯電話の灯
月光降る百羽の鳥の眠る木に
影踏みに誘はれてゐる月夜かな
手の窪に月の光をためてみる
名月や布団はみだす子らの足
児の腹に上がけ掛くる良夜かな
雲母めく小鳥の瞼月天心
月今宵ちひさき鈴を振つてみる
ちぎれ雲白々遊ぶ良夜かな
十六日 二八月旅人の目で立つ大阪
十六夜や空也もなかの絹の皺
天心の月確かむる車窓かな
十七日 立待や尻尾の長き三代目
十七夜時計回りの円相図
十八日 月を待つふたつのカップ十八夜
居待月床に手をつき膝をつき
十九日 臥待ちや湯呑茶碗の魚魚魚
高みより誰こぼす雨寝待月
二十日 からつぽの似合ふ鉄鉢亥中月
二十一日 ふたつの月を見てをりしゆふべかな
たつぷりの梅干番茶真夜の月
二十二日 秋桜や帰路の乳房の薄つぺら
せんせいと呼ばるる仕事月の雨
二十三日 淡々と半月わたる雲の上
嘴を寄せ合ふ小鳥下り月
たれに出す封書二十三夜月
二十四日 下書きのひよろひよろの線若ちちろ
真夜中の書庫台形の月あかり
二十五日 古釘の濃鼠の錆秋寒し
宵闇や鴨居を掴む衣紋掛
二十六日 乗り換えの夜寒の駅のひとりかな
秋燈や二十三時のクロワッサン
淡海乃海寡黙な月のひとかけら
二十七日 一燈のいつか万燈星月夜
月の舟いざなふ伊賀の灯しかな
二十八日 有明や一村統ぶる深庇
晦日 折り紙の頸細き鳥朝月夜
一適のたましひ還る花野かな
息吸つて始まるいのち天高し
【 長月 十三日 】
後の月 晩秋やとぷりこぷりと排水管
元気かと始まる電話十三夜
おじやんの腕の太さや今年米
月見豆孫の名告げて笑ひたり
とび色のスリッパを買ふ冬支度
男らの膝のうしろのゐのこづち
秋愁ひ千年前の黒髪も
ゆるゆると前掛けはづす秋夜かな
>゜))))彡 >゜))))彡
句:
坂石佳音
2011