『 おまじない 』

    てんぐやま2010 秋


     「今日は緑色の多いごはんね。」

    準備中の食卓を見てそう言った藍天狗に罰天狗がちかちかっと笑って、

     「まだごはんには時間がありそうだから、ちょっと散歩をしようか。」

    と藍天狗を誘いました。



                 

     


    今日は八月二日。月は弱々しく細く西の空のどこかで沈もうとしています。
    藍天狗は罰天狗と一緒に大きな石の上に座って今夜のおやすみの曲のことを
    考えていたら、罰天狗が声をかけてきました。


     「藍天狗はおまじないは好きかい?」


    おまじないというと眠る前に枕を目覚めたい時刻の数だけ叩くとか、
    緊張しそうなときには手の平に字を書いて呑むとかそんなの?
    罰天狗の話すのには。。。。。


     「てんぐやまには『八朔どんでん』というおまじないがあって、年に一度八月の
     最初の日にだけ試すことができる。
     好きなものを我慢するという願掛けはよく聞くが、八朔どんでんはその逆で
     自分が嫌いなものをある一定の量食べた瞬間に願いがかなうらしい。
     ところがこの“一定の”が曲者で、一個の時もあれば百個食べてもダメなときもある。
     ある天狗がなにか願い事があったようで、その八朔どんでんにこっそり挑戦した。
     大っ嫌いなアレを手に入るだけ積み上げてどんどん食べた。
     大っ嫌いなアレというのは実は胡瓜だったのだが、一本食べて「ふぅ」二本食べて
     「はぁ」といった感じでなかなか道のりは遠い。
     それでも一本一本と食べてゆくうちに、ふと考えた。「一本、また一本と数えていると
     だんだんイヤになるなぁ。いっそこの胡瓜みーんなつながっていれば。。。。」と、
     そう考えたところで、これから食べようと準備してあった残りの胡瓜が全部つながって
     長い長い長い一本になってしまったんだとさ。」

     「キューリが長くなったの?それってほんとうのおはなし?罰天狗さま」

     「さぁなぁ、でもその天狗の本当の願いは『長い長い胡瓜』ではなかったんだろうな、きっと。」


    罰天狗はそう言ってまた笑うと「そろそろごはんかなぁ」とつぶやいて、
    石から腰を上げました。





    さて、

     

    「わたしは今日の晩御飯はきっぱりいりませんから。」


    そう言って不機嫌な紅天狗がばさばさっと飛び出て行ったあとの台所には
    長い長い長ーいアレがまだ残っていましたとさ。


                

     



               『おまじない』 おしまい

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    『 まめ 』

    てんぐやま2010

     

     

     

    「うおー、ちょっと寝る。」

    昼休みに仕事から帰った紫天狗は仕事着の白衣を脱ぐと、ごはんも食べずに
    布団にもぐりこみました。
    脱ぎっぱなしの白衣のポケットから何か小さなものがのぞいています。

    「小豆だ。」

    手を洗いに来た藍天狗はその小さな豆を指でつまみ日にかざして見ると、
    紫天狗の作業着の上にそっと戻しました。

     


            


    ちょっと念入りに手を洗って出ていこうとしたのですが、なんだか変です。

    「お豆、一粒じゃなかったかなぁ・・・」

    二つ並んでいる豆をじっと見ているとことことことと二粒の豆が揺れて、
    藍天狗の目の前で四粒に。

    「ふしぎー、おもしろーい。」


                   


    椅子に座って頬杖付いて四粒が八粒、八粒が十六粒・・・、
    でも「楽しいなぁ罰天狗さまや紅天狗にも見せてあげたいなぁ」なんて思ったのは最初だけ、
    豆はゆっくり50ほど数える間に一度「ぶんれつ」します。
    今、片手ですくえたのがすぐに両手にあふれ、藍天狗は大慌てでからっぽの鍋に
    豆を入れました。豆がその鍋の半分までになったときにちょうど台所に入ってきた
    紅天狗は藍天狗の声にびっくり、

    「たいへんなのっ!!ざるとか、桶とか、大きい入れ物ちょうだい!!!」

    紅天狗が持ってきた大きなたらいに鍋一杯になった豆をうつし、豆がまた
    ざわざわ騒ぎだしたとき、紫天狗が入って来たかと思うと小豆の一粒を
    白衣のポケットに突っ込み、大急ぎで豆の入ったたらいの中に水を入れました。
    水の底の豆は動きません。

    「あーあーあー、こんなにたくさんの豆、どうするんだ?」

    と白衣を着ながら笑った紫天狗を見て、藍天狗はほっとしてきいてみました。

    「豆はどうしてふえたの?」

    「この豆はそういうもんなんだ。右で静かになって左で変化する。日に当てたら
     たちまち増殖する。水につけたらもう動かない増えた豆は食べるしかないから
     なんか作らなきゃいけないなぁ。でも俺はこれからまた仕事で忙しいから

    あとはよろしく!」

    そういいながら右のポケットに手を突っ込んだ紫天狗は「へっ?」という顔をして
    あわてて左のポケットを探りました。

    「あーーー、やっちまった、今日は小豆の日なのに、ひよこ豆に変わっちまってるぅぅぅ。」

    もういっかい左ポケットに入れりゃいいんじゃないのかな?と藍天狗は思いましたが、
    まだ菓子職人修行中の紫天狗にはそう簡単でもないようで、

    「せっかく小豆にできたのになぁ、親方が喜ぶと思ったのになぁ、」

    と肩を落として仕事に戻る紫天狗を見送ると、紅天狗は小豆の沈むたらいの水を
    そっと突付き、

    「外で遊んでるありのみとときじくも呼んでおいで。忙しくなるよ。」

    と笑いました。

     


              




                                       『まめ』

     

     

     

      『まめ おまけ』

     

     

    「ねえ、ねえ、ねえ、お仕事、きょうは何を作るの?」

     

    紅天狗が紫天狗に熱心に聞いています、そして、お昼ご飯にいらっしゃいと誘っています。

    お昼寝もしていきなさいと言っていたなぁ。

     

     

     

      >゜))))彡  >゜))))彡

     

     

     

      

     

     

     

    その夜のおやつは餡餅とぜんざいでした。

    紫天狗のお昼寝が長かったようで、ぜんざいはたくさんたくさんたくさん、山のみんなを

    呼んで『ぜんざい大会』ができるほどありました。

    栗が大好きな藍天狗は次は紫天狗のポケットに大きな栗があればいいなぁと思いましたとさ。

     

     

     

     

     

     

    『 まめ 』 了

     

     

     

     

    2010.  Photo / 文 / 絵: 坂石佳音

     

     

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