よべのつき 二〇一〇
【 葉 月 】
朔日 新月や畦に一尋ほどの縄
九十九まで語り終へたり朔の月
二日 二日月体育倉庫の万国旗
三日 秋うらら身ぬちにバネを仕込みし児
三日月や逆さまに干すジャムの瓶
四日 たれもをらぬ横断歩道四日月
五日 繊月やグラスワインに金の波
六日 ありの実のきれいな歯型夕月夜
七日 受付の号外の束六日月
月いよよ遠き十一階の窓
八日 大判の生成りのタオル月の雨
仲秋の雨音を聞く尻尾かな
九日 夕さるや月の声音のちちろ虫
十日 盈月や父に供ふる伊賀の酒
一粒の月の馳走を拾ひたり
十一日 乳色の月研ぐ夜半の鰯雲
十二日 黒髪を梳る指宵の月
十三日 上り月刈田の端のコンバイン
十四日 月代やランタンさげてつかひの子
十五日 中秋や空ばかり見る女どち
暮れなずむ空明滅の稲つるび
粒餡と漉し餡迷ふ月の夕
やんわりと十五夜の月山際に
夜の色の携帯電話月今宵
望の夜のゆつくりはづす包み紙
三五夜の銘々皿の濃紫
黒文字を三度沈ませ月の菓子
月夜長団子盗人来たやうな
ころころと空鳴りたまふ良夜かな
十六日 からつぽの似合ふ空き瓶十六夜
いざよひや鼈甲色の老眼鏡
十七日 立待や甲斐の国まで往く葉書
へうへうと雲間の月を釣る漢
十八日 タテのカギヨコのカギ読む居待かな
十九日 寝待月握つて開く微熱の手
二十日 更待の雨てふてふの浅眠り
二十一日 月はここよと真夜中のひつじ雲
二十二日 天涯花手を握りあふさやうなら
秋草の撓みや二タ夜月を見ず
二十三日 宵闇やかつと煌めくシガレット
二十四日 たをやかな神の杯秋薔薇
ぬばたまの夜を汲み上ぐる月の杯
二十五日 月の舟砂糖の鳥の眼のつぶら
二十六日 灯を落す最終電車降り月
夜習や月てふ文字のやせつぽち
二十七日 月上るまどろむ海馬くすぐつて
二十八日 深秋や二十光年てふ隙間
朝月の懸かりそこねし翌檜
二十九日 めつむりてあしたをけふにする秋夜
有明や修学旅行の女子のこゑ
晦日 天金の子規の全集星月夜
身ほとりの話ほろほろ栗おこは
すいつちよんひとりは徒歩で帰りけり
頻波の夜半の草原晦日月
【 長月 十三日 】
後の月 姥月の虫養ひの小皿かな
栗名月おなじ名前の女の子
掌に隠るる硯十三夜
>゜))))彡 >゜))))彡
句:
坂石佳音
2010