かのんのキョロキョロ日記

 

ふたたび伊賀上野

 

2005.9.  残暑

 

 

 

 

     暑い・・・・・・。

   エアコンの具合の悪い車なんて嫌いだ! (嘘です、いつもエアコン無しです。

今年は家でも一度もエアコンを使用せずに暮らしました。)

     JR伊賀上野の駅舎の上は秋の空、なのに今日に限ってなんて暑い!!

 

 

    秋風やバックミラーにゐるをんな

 

 

     額に汗のにじむ残暑のロータリーに車をとめて携帯電話のメッセージをチェック。

ああ、それにしても何て暑い昨日今日。 一昨日は長袖だったのに。

駅の地図看板の前には初老の夫婦一組。

 

「あそこが上野市駅やから、それでええんちゃう?」

「ちがうちがう、ここはその上のJRの伊賀上野や・・・」

 

JRの伊賀上野駅からいわゆる観光スポットに行くにはちょっと距離があり、

同じ駅発の近鉄線に乗り換えるか、バス、もしくはタクシーにて近鉄の

上野市駅まで移動です。ところがバスも電車も本数が極端に少ないのです。

私は待ち人来たらずで時間が余り、ちょっとコンビニエンスストアに行こうかと

思っていたので、お二人をゆーわく≠オて、近鉄上野市駅近くの上野城まで

ご一緒させていただきました。

車中、お二人が神戸から青春18切符でいらしたことをうかがい、私は

海外からいらしたお客さまを待っていたこと、今日はお城や芭蕉生家を

ご案内することをおしゃべり。お二人にもお城の周りにはこんなところが

ありますよ・・・と本日の案内の予行演習をさせていただきました。

お別れして買物をすませて再び一人伊賀上野駅に。

まだ列車到着まで時間があります。

改札は静かです。

 

 

途中下車前途有効赤とんぼ  

 

 

 

 

予定より一時間遅れで客人が到着。大きなお荷物を車に積んで、ご本人も乗って

いただき出発。

伊賀を案内というにはあまりにも不案内な私。幸い以前キョロキョロした場所と

同じエリアをご希望いただいたので、なんとかなるだろうと、まことに行き当たり

ばったりなキョロキョロ行です。

 

 

 

 

私は伊賀に八年住んでいるのですが、『芭蕉翁記念館』に今回初めて入りました。

上野城の敷地内にあり、中はそれほど広くはありません。現在は「芭蕉の紀行文と

俳文」を展示中で、与謝蕪村作の「おくのほそ道」の屏風(本文を書写し俳画が

添えられている)などを拝見。

 

涼しい館内から一歩踏み出せば蝉時雨、蝉時雨。

突然暑くなったので、色々な蝉があちこちで鳴いています。目の前を横切るのは

油蝉、しかし緑の中で際立つ声はやはり法師蝉でしょうか。

 

 

つくつくし石まかせなる磴のかさ

 

 

明日は旧暦の八朔、いよいよお月様の一ヶ月です。

伊賀上野ではこのお城の庭にて中秋の名月の宵に観月薪能が催されます。

(今年は9月18日)そんな日にいらっしゃればよかったのに・・・などと

話しながら天守閣より四方を眺め、風を楽しみました。

次はすぐ下に見える崇廣堂へとご案内です。

 

 

 

  

茸生ふ高石垣のてつぺんに

 

秋あかね爪紅の手を好みけり

 

 

   日盛りのアスファルトの上を歩いて崇廣堂へ。上野城から近いとはいえ暑い。

   受付にて「本日、漢学教室があるので、講堂には机が出ていますが、どうぞ

どうぞ、上がってください。」とすすめていただき、中へ。

 

   その昔ここが藩校だった頃、小さな子は別棟の有恒寮にて「いろは」から文字を

習い、許された年長の子らは広く明るい講堂に上がり講義を聴いていたとか。

 

 

 

 有恒寮のばった氏

 

 

 

百日紅の花や立派な松、木々の間から風は講堂へ。本日の講義のために

並んだ机、幾台かのまだ黙っている古い扇風機の間をすりぬけて外へ。

 

 

 

 

 

 

         あれは萩あれは伊賀路の風のこゑ

 

 

お昼を過ぎていたので崇廣堂を出て昼食。

涼しい中で元気を取り戻して次は芭蕉生家へ。

ちょっとまわり道になるのですが、上野天神、農人町を通りぬけました。

上野天神は芭蕉さんがこのあと訪ねる釣月軒にて書き上げた自撰処女集

「貝おほひ」を奉納した場所。農人町は芭蕉さんの生まれた町とのことで、

商店街の軒先に芭蕉さんの句の短冊がさがっています。それらをつらつら

眺めつつてくてくてく。ああ、それにしても暑い・・・・。

 

また、あちこちに『まちかど博物館』の看板。

これは、個人のコレクションを「どうぞご覧下さい」と見せていただける目印で、

現在三重県下には250ほどの登録博物館(普通のお宅、商店です)があるそうで、

上野城下にもかなりの数の看板をみることができます。

またそんな看板がかかっていなくても、昔ながらの軒の低い家並みを

歩いているとあちこちで楽しい出会いがあります。

 

 

 おそらくおろすと座ることが出来る。

 

 

最後に訪ねた芭蕉生家は以前もキョロキョロした場所です。

受付の方に「よかったらご記名を・・・」と進められ、私は幾度か来た事が

あるのでと辞退。

今回はじめての句友氏は「じゃあ、住所はカタカナで」と。

不思議そうな受付の方に、私が「お客人です。日本人ですが海外に在住なのです」と

説明すると、受付の方がさらに首をかしげて、

「あのぉ・・ご夫婦連れを車で送っていただきませんでした?」と。

「はい」と答えたらみるみる満面の笑顔になり、

「ご夫婦でいらした観光客の方が、『駅でステキな出会いがあって、外国からの

お客さまを待っている人にお城まで送ってもらい、ここを教えてもらって

来ました』とお話して帰られたのですよ。」とのこと。続けて、

「とても喜んでいらっしゃいましたよ、私たちもご紹介いただいてご案内いただいて

嬉しいです。ありがとうございます。」

 

・・・・ああ、嬉しい。今日一日の暑さがどこかに消えたような心地でした。

 

芭蕉生家の奥の『釣月軒』の裏には柿の木、栗の木、そして芭蕉の大きな茎。

芭蕉の一本には花がついており、花が咲くとその木は枯れてしまうとか。

でも、根元に小さな芭蕉たちが生い、若々しい緑を広げていました。

 

 

 柿の木

 

 

当日中に次の仕事の場所に移動のご予定の海外在住の日本民族氏

(芭蕉生家受付の方曰く、「件のご夫婦よりお話をうかがい、てっきり外国人の

方かと・・・」と。)とはそのあと青山高原に移り、涼しい風の中お茶をご一緒し、

夕刻、駅までお送りしました。

「どうぞ乗換駅にて寝過ごすことなく。」と笑顔でお見送りをし、 

今回のご案内を無事終えたのでした。

 

ああ、それにしても暑かったですね、いつもはこんなことはないのですよ。

もっと涼しいときにいらしてください。次は、きっと。

 

 

         仲秋や驛舎に残る入日影

 

 

恐るべき残暑の伊賀より佳音のキョロキョロ日記でした。

 

 

 

 

     

         

 

 

                 2005.9.4  Photo / 文 / 句: 坂石佳音

 



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