かのんのキョロキョロ日記


           『 2004年4月4日 伊賀上野さまざま桜編 』


                 忍犬  


    築城の名手として名高い藤堂高虎は平時は津のお城を居城とし、上野城は城代を
    おき支城としていた。
    その城下に芭蕉は生を受け、高虎の血縁にして藤堂藩伊賀付侍大将、藤堂新七郎家に
    仕えた。

    当代藤堂新七郎良精の嫡男良忠は、『蝉吟』と号し、北村季吟に俳諧を学ぶ
    青年武将であり若き日の芭蕉はその蝉吟・・・・・うーうーうーうー
    ・・・だから、良忠さまに可愛がられていましたのよ。
    藤堂新七郎家の下屋敷である『八景亭』にも幾度かお供させていただいて、俳諧を学んだ
    楽しき日々。

    ところがこの良忠さまが25歳の若さで亡くなってしまいました。(あららー)
    芭蕉はお勤めを辞し、京都へ行ってしまいましたとさ。

    それから二十二年。立派な俳諧宗匠となって上野へ里帰りした芭蕉はかつての
    主君の遺児探丸(藤堂新七郎良長)さまの花見の宴のお招きを受け、懐かしい
    八景亭へ。 そこにはあの楽しかった日と変わらず咲き乱れる桜がありました。


              桜


        さまざまの事おもひ出す桜かな   松尾芭蕉


    この句が詠まれて以来八景亭は『さまざま園』と呼ばれ、『さまざま桜』とよばれる
    この庭の桜、通常は一般には公開されておりません。

    ところがこの春四日間だけ公開されるとのこと。  行かなくちゃ!!
    そこで、いつもの句会のMさまと二人、名付けて『こっそりさまざま吟行』決行。
    伊賀上野は毎年春に『NINJAフェスタ』も催されており、なんだか楽しそう。
    街には忍者がいっぱいかも♪

    ところが、

       花おこし木の芽起しの水の夜


    ・・・花も芽も、もうみんな起きてるからいいじゃない、明日には晴れてね。
    そう願ったにもかかわらず、雨の朝。


       春雨傘短きを選る強気かな


    Mさまとは近鉄大阪線伊賀神戸駅にて合流。単線の電車に揺られ広小路駅へ。

    まずは、苺大好き♪のMさまにぜひ召し上がっていただきたかった苺餅を紹介。
    お店のご好意で店内でお茶まで頂戴しああ、おいしい。

                 いちご餅  

    あたたかく、幸せになったところで、店のすぐ目の前の上野天満宮へ。
    「天神さま、雨が小降りになるまで軒を貸してくださいませ」
    パンパンと手を合わせ、ふと見上げれば天井にこんなものが。


                            方位盤  

       春霖や吾が真中と方位盤


    天満宮というとまずは梅ですが、こちらには大きな桜の木があり満開でした。
    花の体内時計には自分がいつ開いて何時散るのかがインプットされており、
    「その時」がこなければどれだけの大風が吹こうとも花びらは舞いません。
    今日の雨もどうやら花散らしの雨にはならないようです。

    「やまないね、雨」と言いながら天満宮を辞し玄蕃町へ。
    おっと、そこでもちょっとわき道へそれて寄り道。 ここは何時の時代の場所?というところへ。


       桜雨ひそと四軒長屋かな


    そして、また元の道に戻ったすぐ先、土剥き出しの土塀の家がさまざま園(八景亭)で す。

                  さまざま園案内  

    さまざま桜はしだれ桜でした。芭蕉の時代からいうと三代目とか。
    立派な幹のむこうがわに、句碑があります。
    残念ながら木の上部は台風に持ち去られており、あちこち支えられた姿でした。
    もっと残念なことに、写真撮影禁止なのです。(個人のお宅ですので)
    桜の隣の白木蓮の大樹はもう花が終わったようで、おおかたの花びらを落とした
    姿でした。


       土筆踏むなと地を撫づる枝垂れかな


    土筆や蕗の薹、菫、いつからここにいたのでしょう、桜と共に。



       今もただ時の途上とさくらさくら



        さまざま桜   (塀の外より、一番奥がさまざま桜。)


    雨の庭と別れて、芭蕉生家へ。
    『松尾』の表札をくぐりずずいっと一番奥が『釣月軒』。
    ここは、芭蕉の初めての句集「貝おほひ」を執筆した場所。(「貝おほひ」は
    先ほどの天満宮に奉納されたとか。しかし現在直筆本は天満宮にはありません。)


       何の木の枝先なるや春霖雨


                  釣月軒


    晴れていればもっとたくさんの人が行き交い、にぎやかなおまつりもあり、
    見ることのなかったかもしれない静かな景色。

    この後、元藩校である崇廣堂を訪ね、上野城の天守に登り、雨の一日、
    雨の桜三昧を味わった私たちです。


       花冷え冷えと藩校の小玄関


      崇廣堂内   上野城   上野城にて


    そして最後に本当に我々が口に入れ味わった桜がこれ。


                  麦の穂にて、さくら


    お味?それはそれは、さくら・さくらでしたよ。


    さて、Mさまは青山町の佳音宅へそしてようやく雨もあがって・・・
    ここからはまた別のおはなし。


                  青山の夜桜


       花衣月をかざしにかへりけり


    どうでした?伊賀は。次はぜひ晴れた日に、ね、Mさま。
    佳音のキョロキョロ日記でした。


                  Mさまのお土産、すてきな香炉




                            2004.4.5  Photo / 文 / 句: 坂石佳音




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