かのんのキョロキョロ日記


    「かあさん、“おかお”がなんだかむずかしいよ。」

    「あ、ひでこ、うん。この前のお水取りの写真がうまく撮れていなかったのよ。
      むー・・・やっぱり大きいカメラ持って、三脚持って・・・ってほどでもないか。」

    「おみずとりってなに?おおとりさまのおともだち?」

    「おおとりさまは千と千尋・・・それはね・・・・」



            『 かのんのキョロキョロ日記 東大寺お水取り編 』


            月  


    三月六日、土曜日。
    天気予報はなんだかよさそうなことを言っていたのに、行ってみれば奈良は雪催い。


       点滴の春の水てふひとかたけ


    点滴してまで遊ぶなー・・っと、ちょっと(ちょっと?)風邪気味の私にはつらいかも・・・。
    という気候。
    でも奈良の春、いえ、日本の春はお水取りが終わらないことには
    やってこない。
    雨には雨の、雪には雪のよさ・・・あら、皆さまお揃いになりました。

    本日いつもの句会の吟行ですので、集団行動。
    まずはならまち散策です
    そうこうしているうちに、ほら、青空。

              

    「ならまち」という地名はもうありませんが、でもそこはならまち。
    軒の低い町屋、ちょっと曲がったら「あれ、ここはどこ?」の小路。
    触れれば話し掛けてきそうな、古いものたちのゐるところです。



           

                     




    「・・・かあさん、おおとりさまはどうなったの?」

    「!? ちょっとまって、お水取りね。」


    東大寺は「発願聖武天皇」「勧進行基菩薩」「開山良弁僧正」「開眼導師菩提僊那」
    の四聖の協力により造立された寺です。
    東大寺初代別当良弁の弟子である実忠はある時、笠置山の竜穴を見つけました。
    入っていけばそこは仏の世界、ありがたい行の最中でした。
    実忠はそれをぜひ人の世界で・・・と望んだのですが、人の世界と仏の世界は
    時間の進み方が違いすぎる、と諭されます。

    しかし、時間が足りないというのなら、ここにおいての行の幾倍もの回数を、
    そして時間が足りないというのなら走ってでも私たちは行をつとめましょう、と
    実忠の決意は固く、やがて難波津の海にてご本尊となる十一面観音菩薩とも出会い
    もあり、その御前において己の罪を反省し、仏に仕える身と魂を鍛える
    『十一面観音悔過行法』が東大寺二月堂において始まったのでした。

    そしてそれは今も絶えることなく千二百年以上、如月の行(修ニ会、現在は三月)
    として続き、「天下泰平」「五穀豊穣」「万民快楽」などを願って祈りを捧げ、
    人々に代わって懺悔の行を勤めています。前行、本行をあわせてほぼ1ヶ月、
    準備期間を加えれば3ヶ月にも及ぶ大きな法要となります。

    さて、実忠が初めての『十一面観音悔過(修二会)』において、全国の神々をお呼び
    したところ、若狭の神だけが釣りに熱中して12日もの大遅刻をしてしまいました。

    若狭の神はそのお詫びに、仏に供する聖水を毎年この日だけ湧かせましょう、と
    二月堂の下の大岩を叩いたところ、そこから白と黒二羽の鵜(とのこと)が飛び立って
    こんこんと清水が湧き出たとのことです。
    ただしこのお水は年に一日しか湧かず、その日はくだんの若狭の神の社の前の川は
    干上がるのだとか。

    この水を汲む、という行を勤めることから、東大寺の修ニ会は『お水取り』と呼ばれる
    ようになりました。

    また、修ニ会において練行衆は俗世と隔絶されます。お松明の炎は上堂する
    練行衆の道を照らし清めるものであり、俗世の火では無いのです。

    他にもたくさんの伝説を秘め、もちろん走って走って、分刻みのスケジュールで
    行は続きます。
    昼も夜も。


       青の衣選りて大和の水の春


       ただ美しとのみ三月の菩薩かな


       修ニ会天の火なほ強く翔けよ翔けよ


       春の月高し別火の淵冥し


              


    「ん?ひでこ起きてる??」

    「んにゃー、むにょむにょ・・・。」


    月を背にして帰り道、夜の東大寺、夜の奈良、なんだか不思議でした。
    鹿もまだ眠らず、帰り行く私たちを見ています。
    空には星。
    祈りの声は二月堂に響き続けるのでしょう。
    満行を良弁椿に見守られつつ迎える時まで。


       春鹿のつむりに星を残しをり


       金星をのめてふ夢見春の風邪


    ただ歩いただけ、それでも感じる古都の気配。
    神と仏の複雑に交差する国、日本。

    ああ、楽しかった♪ 次は・・・そうだ、次の日は・・・。


       奈良の夢あふさかのゆめ朧月


    「で、かあさんはつぎのひにどこでなにをたべたのぉ?」

    「げっ!!眠ってるんじゃなかったのぉ?きゃーーー」


    佳音のキョロキョロ日記でした。




                            2004.3.15  Photo / 文 / 句: 坂石佳音




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