かのんのキョロキョロ日記・番外
『ここはどこ?わたしはだれ?下着も脱ぐの?きゃー!編』
若戎
その日は「えむあーるあいのひけんしゃ」になる日。
車で通ったことはあっても降りたことの無かった駅にて下車、
ロータリーに静かにやってきたバスは、私だけを乗せて静かにドアを閉めて出発しました。
たどりついたのは国立国会図書館、じゃなくてATR。
ATRって何? まあいいや。
「えむあーるあいのひけんしゃでまいりました○○です。」
「????」
あれー?すぐにわかってもらえるはずだったのに、どうしてぇぇぇ・・・
んー、んー、んー、あ!!!!
「あのぉ、さっきの名前は私の本名でした。坂石佳音と申します、ごめんなさい。」
「あ、わかりました。」
あーあ、すっかり怪しい人物になってしまいました。
待つことほんのちょっと、見たことのある方がにっこり登場、S氏です。
ATRの建物は、一歩中に入ったら異世界。迷子になったら永遠に出ることが
できなくなりそうな銀の壁が続く廊下を彼について歩きました。
同じドア、同じドア、同じドア、同じドア、『危険!』の表示、また同じドア・・・・・
そのひとつをS氏がノック、中から扉が開き(外からは開かない)、初めてお会いする
のになんだか懐かしいT氏の笑顔に迎えられたのでした。
中に入るとそう広く見えない室内にコンピュータディスプレイが並び、
大きなガラスのむこうにはMRI。
被験者(私の前の人)は毛布を掛けてもらって、手だけを動かしていて、
こちら側では技師がディスプレイを見守っています。
挨拶もそこそこに、T氏より『被験者の同意を得る際の説明』を受け(病気はないか
とか、今妊娠していないか等)、同意書にサイン。
サイン後もいつでも実験の中断、参加取り消しができることを幾度もご説明いただき
ました。
今回は、「提示された文章を読んで理解するときに働いているとされる、
ある種の機能(関連性)について調べる」とのことで、設問を見て判断している間の
脳の活動の変化を調べることが目的とのこと。つまりは私が
「やーねー、この問題。」
などと思っている時に私の脳のどのあたりがピキピキしているのか?
ということだろうかー?などと思いながらいざ入室。
装置内では頭を固定され、できれば被験中は唾も飲み込んでほしくないと。
『動くな』ということです。
目の前の小さな鏡にスクリーンがうつっており、そこを見よとのこと。
映画?なわけはありません。
まず最初の10分は脳の詳細なデータをとるべく目を閉じておとなしく。
そしていよいよ実験開始。
左手には緊急ブザー(もうイヤと思ったら押す)、右手には二つのボタンのついた
ラインを持ち、スクリーンに現れる質問に右手のボタン(○か×)で答えます。
絶食すると体重が減る
太郎は体重が減った
五秒後
太郎は絶食したにちがいない。
五秒以内に回答。
んー。
次郎は晴れたらテニスをする
次郎は今テニスをしていない
今は雨が降っている
むむむ、
イギリス人は紅茶が好きだ
花子の夫はスペイン人だ
花子の夫は紅茶を飲まないだろう。
・・・・・・・・
等々、こんな問題を立て続けに10分間。そしてちょっと休憩。これを4回
繰り返します。最後に再び精密な測定をしておしまい。
計60分間黙って、あたたかな『ひよこちゃん柄』の毛布にくるまって。
技師の語りかけには、左手だけを振って答えるだけのうるさくて静かな、長くて短い
一時間でした。
でも、なんておもしろい!!!
トイレに行けば帰りはたどり着けるかどうかドキドキだし、廊下にはロボットが
ウロウロしていて戦いを挑んでもいいそうだし。(ウソです)
もちろんこのあとにはずっとお逢いたかった方々との出会いもあるし。
最後に自分のデータをいただくという嬉しいオマケもあって、『MRIの被験者』体験は
無事終了したのでした。
ただし、私のデータがまともかどうかなんて、あとは野となれ山となれ〜♪です。
なぜって、実験中、問題に太郎・次郎がたくさんでたので、三好達治の
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
を思い、わたしの
太郎にも次郎にも雨半夏生
を思ったりしていたから・・・・。
下着はどうしたって?脱ぎましたよ。
金属のホックやワイヤーのあるあれ。
それでなくてもさびしい胸元が、ますます寒かったのでした。
その後は・・・・・
街灯のおのおの寒き夕べかな
の中をS氏の車で走り、あたたかな場所にて、
約束のかなひて睦月蔵の酒
遠き鬼火や手品師の腕まくり
まことすばらしきおもてなしをいただいたのでした。
そしてなによりも美味しかった♪
ね、レイン。(から揚げ、こっそり残りぜーんぶ食べたでしょう?)

またも楽しかった、かのんのキョロキョロ日記でした。
おまけ “佳音の脳2004.1.9” 
