かのんのキョロキョロ日記

ヤミトリヒキ編

2003年727日 (飛行機雲日和)

 

撮影:りん

 

 

今日は例のものを持っていかなくてはならない。

小さな箱に入ってここに届けられてから、そこそこの時間が流れた、

もう手放す頃合いだ。

しかし・・・、

かのんはそれを鞄の奥底に入れて、上からスカーフをかぶせた。
やさしい草色の下、溜息が聞こえた気がする。
「早く渡してしまおう」
そう思いつつ、黒いかばんの底に灯るやわらかな月の感触をいつまでも
そのままにしていたいような気もする。
そっと、スカーフをつまんで、それがそこにあることをもう一度確認して、
かのんはPCの電源を切り、ちょっと鏡をのぞいて、玄関の扉を開いた。

ああ、久しぶりの青空だ。

 

撮影:かのん

 

 

駅に着くのが少し早すぎたようだ。

長い本当に長かった今年の梅雨もようやく明けたのだろうか、ホームの先にも

青空が広がっていた。

『それ』を手渡すには一時間半の小旅をこなさなくてはならない。

ここは始発駅なのでこれからの出発を待つ列車が、引込み線で出発時刻を待っている。

運転手はまだ来ない。

かのんは携帯電話を取り出した。

 

・・そのかわりツキコさん、ケイタイという呼び方はしないでください。

  携帯電話 そう言ってください。必ず。

  ケイタイという呼び名は気持ち悪いのです、ワタクシは・・・・・

 

ドアが閉まり、一輌にたった二人の乗客のひとりとなって、隣の席に置いた鞄を見る。

受け渡しの時刻は先ほど確認済みだ。

効き過ぎはじめた冷房のためにスカーフは肩に。鞄の中から『それ』のやわらかな

クリーム色がこちらを見上げている。手に取ると、あたたかい。

 

「もう一度、読めるだろうか」

 

どこから?最初から?どこを?全部? お菓子の箱の中、最初のひとつを迷うような

指がページをめくる。「センセイ」の文字にあちこちから呼び止められる。

やはり、最初から。

いったりきたりの恋心に、また便乗する。

「その時」、まで。

 

 

泣かない自信はあった。

でも泣いてしまう自信はそれより大きかった。

クロスシート、窓側の席に座っていてよかった。と、車窓の空が揺らいでいるのを

眺めつつ、胸元にある月の名の石を服の上から押さえる。

窓の外、空はいつのまにか街の上にあった。

空につぶやいてみる。

 

 「また、いつか、会いましょう」

 

 「いつか、きっと会いましょう」

 

ふと、ランドクルーザーを決してランクルとは呼ばない人の声が、青い空から降ってきた

気がして、かのんは『それ』をそっと閉じて、また鞄の底へおさめた。

 

あわあわとやさしい、そして深い恋、

『センセイの鞄』を。

 

 

撮影:かのん

 

 

 

 

 

撮影:かのん

 

 

さて、その日、大阪の某書店、俳句のコーナーにて待ち合わせの母娘(?)(^^ゞです。

無事に出会うことも、「ブツ」の受け渡しもまことにスムーズに運んだのですが、

そこはオヤコ、なかなかに離れがたく、母は毎度大阪では本屋巡り、どうやら娘も

それに異議なしのようで、お茶を飲んだり(久しぶりにあんなにケーキをいただきました、

おいしかった!)本屋に行ったり、違う本屋に行ったり、またさっきの本屋に戻ったり。

(なにやってんだか。クスクス)

その間にもメールで他のムスコやムスメに連絡してみたり・・となかなかエキサイティング

だったのでした。

ん?どれくらい一緒にいたのって??

一瞬です、一瞬。

出会ったのは上の写真の刻、夕食は夕日の中でしたけど。

そのあとも・・・。

一瞬ですって、一瞬。

 

夏深し手より離れぬ堅表紙        佳音

 

雲を恋ふひとりとひとり月見草       〃

 

旅人となりて飲み干す夕焼けかな      〃

 

撮影:かのん

 

他の皆様にもお会いしたいね、そして、きっと、また会いましょうね、と約束した

りん&かのんでしたとさ。

 

どんな二人連れだったって?? そりゃぁ、ちゃーみんぐできゅーとでぷりてぃで、

ああ、早くいらっしゃいませかつこさま。

苑主さま、かのんが苑主さまを大きいと言いすぎて、りんさまの中で苑主さまは

巨人になってしまいました。

地下街で、それらしい背丈のかたを指させば、

 

「?? それだけ?」

 

うっひゃー、誤解を解きに、早くいらしてくださいね。

 

かのんのキョロキョロ日記でした。

 

                              坂石佳音

 

撮影:苑主

 

 

 


               2003.7.27.  Photo / 文 / 句: 坂石佳音




                         

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