最初の第一句

六年三組 27名

 

 

 

 

 

六月十一日、月曜日、仕事中に携帯電話が震えた。
もちろん出ることは出来ないので後で見たら小学校からだった。
娘に何かあれば、職場の番号も提出してあるのでかかって来るだろう
とそのまま帰宅。
その夜、かかってきた娘の担任の先生からの電話は、

 


「今週お忙しいでしょうか、俳句の授業に来ていただきたいのですが。」

 


家庭訪問の折にそんな話をしていたので、もちろんこれは嬉しい話、
でも、今週?
今日は月曜日。明日、火曜日はは新聞屋さん句会。次の休日は金曜日。
しかし、すでに短歌の授業が終ろうとしているとのことで、急遽仕事の相方に
連絡し、快諾して貰い、水曜日に学校に行くことにした。

 

とにかく時間が無いので、あまり悩まずに、先生の仰る「楽しい俳句との出会い」
を目標に、実作してもらう算段を、その夜と句会への道中と帰宅してからも
ごそごそとひとり作戦会議。(用紙の準備は娘が手伝ってくれたり。)
以前、夏井いつき氏の句会ライブに二度参加したので、その時のことを
参考にさせていただきながら黒板に貼る資料を書き、当日に臨んだ。
俳句のためにいただいたのは13日水曜日の三限目の45分間。

ただし、こども達がのってきたら続けて四限目も使ってよいとのこと。

(つまりはまったく「あかん」時のことも想定しなくてはいけない。)
初めての俳句、最初の一句、楽しく、全員が最低一句完成できること、

それがわたしと先生の今回の一致した目標になった。

 


はじめてのことに踏み出すのは大人もこどももパワーがいる。
まして、「上手に出来なくてはいけない」と思ってしまっては、

心に何が浮かんでもそれを紙に書くことはできない。
一歩踏み出せば、あとはどんどん歩いていける、こどもなら尚のこと。
こども達の最初の一歩、さあ、どうしよう。

 

 

 

 



 

教室に入り、まずは挨拶。
わたしはこのクラスの子の母だけれど、今日は俳句をする人として来たので、
「佳音さん」と呼んで欲しいとお願いした。

そして、俳句の話に入る前に、ちょっとしたことを例にあげて、

自分の意見を人がどう思うかなどと思わず、恥ずかしがらずどんどん出すのが

正しいと話してみた。
どうか伝わってね、言葉の持つ大きな力。

 


俳句、季語の説明を準備してきた資料を黒板に貼りつつ話す。
皆こちらを向いて、聞いて、質問してうなずいてくれる、
もう指を折っている子もいる、
なんてすばらしいこども達。
「俳句って難しい」と思わずに、普通に話す言葉が季語の入った五七五になればいい、
ただそれだけのことを伝えただけで、こども達は詠み始めた。
一歩が出ればあとはどんどん。
どうしてもできないという子にはまわりの子等が「季語」をプレゼント。
その季語を持って、目を閉じてわたしと彼とバーチャル吟行。(「夏祭り」でした)

 

「お祭だよ、ほら、何が見える?」と問えば、彼は「ひとがいっぱい・・・・」と。
「『ひ・と・が・い・っ・ぱ・い』は七音やね。あと五音や。」

 

そこまでで、わたしは「かのんさーん」とうしろから呼ばれ離脱。
次に「かのんさん!」と呼んでくれたのは夏祭りの彼で、りっぱに十七音に
仕上がっていた。
そして次の一句も。

 

 

「かのんさーんできたー。これって俳句?」

 

「まる♪」

 

「かのんさーん、かきごおりは季語?」

 

「そうだよ、夏。(^.^)v」

 

「できたでー、かのんさん。」

 

「あ、季語が無いよー、・・・」

 

「待って、えーとえーと、これは?」

 

「おっけー!!!!」

 

 

ああ、みんな俳人。
あまり使って欲しくない言葉、「死」とかはさすがに

「違うのにしようよ」と提案したが、基本的に十七文字で季語があれば

みんなマル。
この調子で15分、十も二十も詠む子、三つほどで何度も推敲の子、

 

「字があまるねん。」 「ぼくは足りへんわ。」

 

一字や二字、両方とも、声を出して読むとき上手に読んだらええよ
でもできるだけ十七にしてな。

 

「はーい♪」

 

言葉遊びは、なんて楽しい。(わたしが、です。)

結局三限目に全員が一句以上(多い子は十以上)詠み、こども達から
「もっとやりたい」との要望が出て、そのまま休み時間もなしに続行。
ああ、嬉しい。

 

 

 

せっかくたくさん時間が出来たので、投句と選句もしてもらうことに。
「どれを選んだらいいかわからん」とか「選んでください」とかいう子たちに
自分の一番を自分で決めるのも俳句の醍醐味やんかと話して、
詠んだ中から一番好きなものを別の紙に無記名で書いてもらい回収。
黒板に27枚貼りつけた。
ちなみに生徒は26名。先生も今日は皆と平等の俳人。

 

先ずはわたしが音読して、一句ずつ句の情景を説明。
そして、皆に自分の好きな句に投票してもらった。(当然自句は選べない。
自分の名のマグネットを好きな句の下に貼るのだが、皆真剣。)
わたしの天地人も不本意ながら(だってみんな良い、良すぎるほど良い、
これも説明済み。だが、どうしても選べというので。)つけて、

いよいよ披講・・の前に、ちょっとおまけの話を。

 

 

 

春の参観日の折、うしろの壁に絵と文章のコラボレーション作品が
掲示されていた。詩のようだったり、つぶやきだったり、俳句のようだったり、
短歌のようだったり。
それらの中で、俳句っぽくて好きなものをわたしは手帳にいくつか書き留めていた。

 

 「わたしは俳句が好きなので、他にも詩や短歌っぽいのやいいものがいっぱい
あったのだけど、俳句らしくていいなあと思ったものを発表させてください」

 

というサプライズ。

 
たんぽぽは見あげてみるときれいだよ

たんぽぽは見えないところでがんばってる

さくら山草かりされて少ないよ

ここらへんで花があるのはこいつだけ

さくら山トカゲさがして絵がかけない

 


それぞれ名乗ってもらったら、皆から自然に拍手が。
わたしも拍手して、選んだ経緯と情景の説明をした。
それぞれいいのだけれど、一番上のものは、普通たんぽぽは
上から見ることが多いのだけれど、それを見上げてみたという視点が
人と違っていてとてもいい、と説明。

 


いよいよ今日の句の披講。
「右から順に読むからね、名乗ってね。」とお願いして、句を読む。
みんなまっすぐに手をあげて「はい」と応えてくれて、他の子らは
「あいつのんかぁ」とか「うまいなあ」とか言いながら拍手。
わたしも先生も拍手。
四限終わりの時間ギリギリで披講が終った。

 


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ごあいさつ

 

今日は27人全員がこんなに立派な俳句を詠んでもらって、わたしは本当に
楽しくて嬉しいです。
この黒板に張ってあるものは皆さんの作品、まちがいなく『俳句』です。
今日、これを持って帰って、胸を張っておうちのかたに見て頂いて下さい。
そして、手元のたくさん俳句が書いてある下書きの紙はお名前を書いて
わたしにくださいね。
これからもいろいろなことをいろいろな角度からしっかり見て、
よかったらまた俳句を詠んでみてくださいね。
そして、またわたしにも見せてください。

 

ありがとうございました。

 

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挨拶が終って、帰ろうと思ったら、

 

「かのんさん給食一緒に食べたいなー。」と子供たち。(あら、五七五)
先生が献立を見て、分けられるものだったのと他のクラスに欠席者が
いるかと確認に走ってくれた子が牛乳と食器を借りてきて、わたしの
食卓ができた。


「ほんまにええの?」

 

 


 
そして嬉しいお昼ご飯をいただいていると、こども達から

 

「せんせい、今日の宿題俳句にしようや。」

 

「今日やったらなんぼでも出来るわ。」

 

との提案、先生もうなずいて、どうやら俳句が宿題の様子。
給食を食べながらも指を折っている子、給食のおかずの中から
茄子を見つけて、「季語かなァ」とつぶやく子。
わたしも冷たい牛乳をいただき、
「今日、『夏の昼冷たい牛乳おいしいな』っていうのがあったね♪」
と言ったら、その作者がひょいと顔を出し「にっ」と笑ってくれたり。

 

ごちそうさまをして、片付けもみんなとして、みんなとさようならをしたのでした。

 

 

 


   >゜))))彡   >゜))))彡

 

 

 


帰宅して、みんなの句をもう一度見直してコメントをつけたり、

wordで一枚にまとめていたら娘が帰宅。
にこにこと渡してくれたのはなんと先生を含む27名からの手紙。

 

 

 


 
「楽しかったです。」
「はじめてでした、でもできた」
「思ったより簡単でした」
「こんどはもっといっぱいつくりたいです」
「むずかしくなくてよかった」
「いややなーとおもっていたけれどやったら楽しかった」
・・・・・・

 

男の子も女の子も、皆、色々。

びっしりと書いて、俳句をつけてくれた子や色を塗ってくれた子も。

 

嬉しくて・・・・早速、ひとりずつコメントをつけていた紙の余白に

返事も書いて、wordで作ったみんなの一句一覧27枚と一緒に
翌日学校に届けてもらった。

 

 

 

 

なにもお礼が出来なくて・・・と先生はおっしゃられたけれど、
わたしが一番楽しかった。

嬉しかった。
それがわたしの収穫、大収穫。
ありがとう、みんな。
ありがとうございます、かよんせんせい♪

 

 

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はじめの第一句  六年三組   二〇〇七年 六月

 

風鈴がきれいなねいろひいている        浩希
夏の夜朝とは違うすずしい風          郁
かにさされ夜もかきかきかきすぎだ       敦子
雨がえるいぶつをのんで胃をだした       崇尋
虹のはし池の中にももう一本          彩音
はんそではなつにきてこそかっこいい      智明
肝だめしこわかったのは図工室         淳智
夏の海さざなみが鳴いている          ゆきの
夕顔は夕方にさく顔なんだ           望英
なつのよるもうふはいらんあついから      美和
夏の日に一年生がたんけんだ          拡輝
夏の夜みんなとさわいできもだめし       雄基
白いそらはるかにつづく夏のくも        毬乃
きれいだなみんなが見上げる夏のそら      陽子
かき氷頭がキンキン痛くなる          滉貴
夏の昼プールの上で大笑い           慶一
田んぼには夏のホタルが待っている       睦
ふうりんはりんりんなってすずしいな      みなも
せみの声毎朝それがめざましに         智之
真夏日に大空うかぶしろいくも         嘉穂
ひまわりがたいりょうにさいてたねいっぱい   成美
夏の空いんせき落ちて地球ない         雄平
夏の夜ゲコゲコうるさいひきがえる       大輔
なつまつりやたいたくさんどこいこう      亜沙美
夏の海すずしいはずが暑かった         郁弥
暑い夏キレイな花がかれていく         将

 

夏の風背中にうけて俳句よむ          かよん(学級担任)

 

 

  

 

 

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さてさて、また遊んでくれるかしら、6年3組のみんな

 

 

   二十七人皆うたふ夏一日   佳音

 

 

 

2007.6.15  Photo / 文  :  坂石佳音